第十四話 美濃の蝮その五
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「御主は」
「ははは、早くて確かであればいいではないか」
「まあそれはそうじゃがな」
「さて、壁じゃ」
「それでどうするのじゃ?」
「まずは人を集めるぞ」
こう言う木下だった。
「まずはじゃ」
「人をか」
「実際に普請をする者を集めるぞ」
「いきなりはじめるのではないのか」
「まあ見ておれ」
蜂須賀の突っ込みにこう返すのだった。
「これからやることはのう」
「これからか」
「左様、ではまず集めるぞ」
「うむ、わかった」
蜂須賀も一応彼の言葉に頷いた。そのうえで様子を見守るのだった。
そうしてだ。人を集めるとだ。木下は彼等にこう話すのだった。
「まずはそれぞれの組に分けさせてもらうぞ」
「組にですか」
「それにですか」
「そうじゃ、分けるぞ」
こう話すのであった。
「そしてそれぞれの受け持ちの場所を決める」
「全員で全部するのではないんですか?」
「そうじゃないんですか」
「そうじゃ。わしのやり方はちと違うのじゃ」
小柄な身体で集められたごつい人夫達を見上げてた。木下の話は続く。
「そうしてそれぞれで動いてもらう」
「動くんですけ、それぞれの組で」
「それでなんですか」
「そうじゃ。そしてじゃ」
木下はだ。彼等もこうも話した。
「一番最初に、しかもよくできた組にはじゃ」
「ええ、その組には」
「何かあるんですか」
「それで」
「その組には報酬が多くなるぞ」
こう話すのだった。
「そうなるぞ」
「えっ、そうなんですか」
「早くできればですか」
「そして上手くできればですか」
「報酬を弾んでくれるんですか」
「うむ、そうじゃ」
ここでだ。木下は満面の笑みを見せてきた。その笑みがだ。妙に人懐っこく見た者の心に残って仕方ない、そうした笑みだった。
その笑みでだ。彼は言うのであった。
「それでどうじゃ」
「はい、やらせて下さい」
「是非それで」
「御願いします」
人夫達は威勢をよくさせ一斉に言った。
「報酬が増えるんならです」
「もう言うことはありませんから」
「いえ、本当に」
「それぞれの仕事をする場所の割り当てはこっちでやっておく」
それは木下がというのだ。
「皆それについてくれるようにな」
「わかりました、それでは」
「決まり次第すぐに」
「やらせてもらいますから」
「頼んだぞ。それではじゃ」
こうしてだった。城壁の修復がはじまった。人夫達の頑張りでだ。それは瞬く間に終わりしかもその仕事は見事なものだった。
蜂須賀はそれを最後まで見てだ。驚きそして呆れる顔で木下に言うのだった。
「おい、猿」
「うむ、何じゃ?」
「御主本当にやってしまったのか」
小柄な彼の顔を上から覗き込んでの言葉だった。
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