第十三話 家臣達その十三
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「これはかなり」
「そういえば猿は」
「確かに」
武井と松井は木下について語るのだった。
「頭が回りますし」
「妙に憎めないところがありますな」
「何かとひょうきんでありますし」
「左様でござるな」
「ふん、わしはどうもな」
柴田はその木下を見ながらどうにも面白くなさそうな言葉を出すのだった。
「この猿めは好かん」
「いや、それはどうしてですかな」
坂井がその柴田に対して尋ねた。
「権六殿の御気に召されぬ訳は」
「何か要領がよさそうでのう」
それでだと言う柴田だった。
「それでじゃ。わしはじゃ」
「好きになれぬと申されますか」
「そうじゃ。どうもな」
「まあそう仰らずに」
その彼を池田が宥める。池田恒興である。
「権六殿も家老でありますし。自重されるべきかと」
「そうじゃな。まあよいか」
柴田も彼の言葉に落ち着きを取り戻して話した。
「猿のことは」
「そうじゃ。権六よ」
「はい」
信長は柴田にも声をかけるのだった。柴田もそれに応える。
「御主もじゃぞ」
「それがしもでしたな」
「そうじゃ、政の役目はわかっておるな」
「開墾ですな」
「それの方はどうなのじゃ」
「ううむ、やっておるつもりですが」
戦の場と違ってだ。柴田はどうも困ったような顔を見せてきた。その濃い髭が微妙なものになっている。
「しかし」
「しかしというか」
「あれでいいのかどうか」
「いえ、権六殿は充分やっておられますぞ」
「その通りです」
堀と前野がここで言うのだった。
「それがし達権六殿と共に働いておりますが」
「これがかなりのものでした」
「そうであろうな」
信長も彼等の言葉に納得して返すのだった。
「権六はこれで政もできるのじゃ」
「失礼ながら最初はまさかと思いました」
「しかしです」
堀と前野はここでまた話す。
「権六殿、田畑をよくわかっておられます」
「水のことも見られますし」
「その通りじゃ。権六は若い頃から父上と共に田畑を見てきたからのう」
「しかしそれがしは」
その柴田はここでも困った顔になっていた。
「どうも。政は」
「まあそう言うな権六よ」
信長は穏やかに笑ってみせて彼を宥めにかかった。
「御主は政もできる。自信を持ってよいのだぞ」
「左様でござるか」
「わしが言うのだから間違いない」
こうも言ってみせる信長だった。
「それはだ」
「殿がそう言われるのなら」
「慢心は駄目だが己を粗末に見るのもよくない」
「それもですか」
「己をよく知ることだ」
これが信長の言いたいことの核心であった。
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