第十三話 家臣達その十一
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「いや、これは中々面白いことでござる」
「これ、慶次」
平手が顔を怒らせてその彼を叱ってきた。
「御主はまたそんなことを言ってじゃ」
「ははは、冗談でござる」
「冗談か。ここでそれを言うのがいかんのじゃ」
「殿の御前だからですか」
「わかっておればもう少し慎め。全く御主という者は」
「ああ、よいよい」
信長が二人の間に入った。慶次の鷹揚に笑う顔を見ながらだ。
「その話はそこまでじゃ」
「全く。殿は甘過ぎますよ」
「きりがないわ。爺の小言だけは」
「怒らなくてどうしますか、全く」
「よくもまあ同じことを何度も何度も怒るものだ」
信長はこのことには感心していた。それを言葉に出しながら話すのだった。
「普通いい加減馬鹿馬鹿しくなってくるものだがのう」
「そこが平手殿のご意見番たるところですな」
「いや、全く」
「その通りですな」
他の家臣達はその平手を見て顔を崩して笑ってそれぞれ述べた。
「我等だけでなく殿にも容赦がない」
「恐ろしい方でござるよ」
「そうじゃな。それで爺よ」
「はい」
信長は平手に顔を向けて声をかけた。平手も彼に応える。
「何でしょうか」
「あの者だが」
家臣達の末席にいるやけに小柄で猿そっくりの痩せた男をその右手に持つ閉じられた扇で指し示してだ。平手に対して言うのだった。
「どう思うか」
「木下ですな」
「そうじゃ、猿じゃ」
信長は彼をここでもこう呼んだ。
「あの者をどう思うか」
「ふむ。戦の場においては役立ちそうにありませんな」
平手は彼のその小柄で貧相な身体を見てまず述べた。
「少なくとも槍や弓は不得手でありましょう」
「そうじゃな。では戦の場では役立たずじゃな」
「そう思います」
木下を鋭い目で見ながらの言葉だった。
「それにつきましては」
「では他の場所ではどうじゃ」
「他でございますか」
「そなたならどう使うか」
平手にこのことを問うのだった。
「さて、どうするのじゃ」
「そうですな。政でしょうか」
平手は考える顔になって述べた。
「それならば。一度使ってみて見てもよいかと」
「そう思うのだな」
「はい」
主に対してはっきりとした声で答えた。
「それがしはそう思います」
「そうじゃな。では兵糧の記録付けやそうしたことをさせていくか」
「それがようございますな。どうやらこの者」
平手はまだ木下を見ていた。そのうえでさらに話すのだった。
「頭はいいようでござるな」
「それはわかるか」
「他の者に比べて出自はよくないと聞いております」
「ほう、そのこと知っておったか」
「しがない百姓の出でしたな」
その通りだった。平手はこのことまで知っていたのだ。
「確か」
「うむ、その通りじゃ」
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ