第十三話 家臣達その四
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「そして佐渡です」
「佐渡の金山を」
「そこからも」
「金山からの金で越後をさらに豊かにします。よいですね」
「そしてでしょうか」
宇佐美がその精悍な主に問うてきた。
「次の戦に」
「そうです。一向宗に北条です」
今の敵は二つであった。
「彼等を成敗します」
「殿、北条は今は静かです」
「ではまずは」
「そう、一向宗です」
謙信が今第一に見ているのは彼等だった。その彼等を見据えての言葉だった。
「既に越中まで来ていますね」
「加賀から。能登の一部を侵してです」
「そのうえで、です」
「最早越中は」
「ならばです。一向宗です」
やはり彼等だというのである。
「彼等を成敗します」
「そして何時かは」
「加賀をも陥としですね」
「都に」
「私は関東管領です」
幕府でのその官職はだ。謙信の誇りでありそれ以上に彼に義務を与えていた。その官職から得られる権限や名誉、大義名分といったものはだ。謙信の目には入っていなかった。
そのうえでだ。謙信は語るのだった。
「関東管領として。都の将軍を御護りせねばなりません」
「そしてこの国も民も」
「戦の炎から」
「護ることこそが私の使命」
謙信はまた言った。
「だからこそです」
「ではその為にも」
「今は越後を治め」
「そうしてですね」
「次の戦です」
それを既に見ていたのだった。
「よいですね」
「はい、それでは」
「我等は今より」
「鎧は今はいいです」
つまり戦はというのである。謙信にしろ今は鎧ではない。軍神といえど常に鎧を着ているわけではない。そういうことであるのだ。
「民の為に。汗をかくのです」
「畏まりました」
「では」
こうしてだった。上杉の者達もそれぞれ政にあたった。そしてであった。
謙信は彼等との話を終えるとふと己の館の庭に出た。そこには月がある。白い満月が輝きだ。濃い、黒に近いが確かに青い空を照らしていた。
その月を見てだ。この名を呼んだ。
「直江」
「はい」
すぐにだ。その直江兼続が来てだ。謙信に応えたのだった。
「殿、何か」
「いい月ですね」
謙信の声が微笑んでいた。
「美しく、そして」
「そして」
「澄んでいます」
その月を見ての言葉であった。
「こうした月のようにありたいものです」
「それが殿の望まれることですね」
「そうです。一点の曇りもなく」
実際にこう話していく謙信だった。
「そしてその光で世を照らし」
「闇の中にいる全てを照らし出す」
「そのうえで導きます」
謙信は尚もその夜空の月を見上げていた。
「私はそうなりたいものです」
「日輪ではなくですか」
「日輪ですか」
「はい、それではないのですか」
「日輪は既にあります」
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