第十二話 三国の盟約その十
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「まあ慶次はあれでいいではないか」
「よくはありませぬ」
「殴る程度で許してやれ」
「実際にそうしておりますが」
「いや、そうではなくだ」
「まだ何か?」
「ううむ、爺は変わらぬのう」
信長はそんな平手に困った顔になりながら話した。
「頑固だのう」
「頑固でございますか」
「全くじゃ。そういえばじゃ」
「そういえば?」
「美濃にも随分と頑固な者がおるらしいのう」
信長はふと思いついた顔になってだ。美濃の話をしだした。
「美濃三人衆のうちの一人の」
「稲葉ですな」
「左様、あの者じゃ」
和尚の言葉に答えて声を出した。
「あの者も随分と頑固だというな」
「その様ですな。美濃三人衆はどの者も癖がありますが」
「並大抵の者では使いこなせぬようだな」
「蝮ならばこそですな」
「ふむ、蝮ならばか」
それを聞いた信長の顔がここで笑った。そうしてであった。
そのうえでだ。その和尚だけでなく平手に対しても告げた。
「その蝮との会見だが」
「はい、話は進めております」
平手が信長の今の言葉に答えてきた。
「それは既に」
「早いな、相変わらず」
「ことは迅速にかつ慎重に」
平手はその相反しかねないものをさらりと言葉に出してみせた。彼はこと政と守りにおいてはこの二つを常に共にできる人物でもあるのだ。だから信長も彼には中々逆らえない。
「そうでありますから」
「ふむ、それでか」
「はい、左様でございます」
「うむ、それで話は順調なのか」
「美濃の方も乗り気でございます」
平手はこう信長に話した。
「その道三殿がです。それに」
「それに?」
「来るとなればその美濃三人衆も来るようです」
このことも話すのだった。
「どうやら」
「そうなのか、あの三人もか」
「それに」
平手の言葉は続く。
「今丁度幕府から美濃に人が来ておりますが」
「ふむ、誰じゃ?」
「細川藤考殿と明智光秀殿です。それに和田惟攻殿です」
その三人だというのである。
「この方々も来ております」
「細川というのは聞いたことがあるな」
信長はまずはその名前に眉をぴくりと動かした。流麗な形のその眉が動いたのである。
「何でも公方様のご落胤だそうだが」
「そしてかなりの多芸者です」
「多芸か」
「戦もできますが政に様々な風流にも通じているとか」
「面白そうな者だな」
信長はそこまで聞いて楽しげに笑ってみせた。そうしてであった。こう言うのだった。
「その者を見たいな。それに」
「それにといいますと」
「和田という者も気になるがじゃ」
「明智殿ですか」
「名前からして美濃の縁者だな」
明智という名前はかつての美濃の主土岐氏に近い家の名前である。信長はそこから察したのである。
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