第十二話 三国の盟約その三
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「そのこと。御承知下さい」
「畏まりました」
「では行かれるのです」
謙信のその声に穏やかさが戻った。
「貴方の果たされるべきことに」
「はっ、それでは」
謙信の言葉を受けてであった。雪斎は越後を経ちそのうえで甲斐、そして相模を回った。その結果彼の最初の望みは果たされたのだった。
駿河の善徳寺にだ。彼等はいた。
信玄はそこにいた。そして左右にいる穴山と高坂に言うのだった。
「この寺がだったな」
「はい、今川殿が育たれ」
「雪斎殿が住職をされているその寺であります」
「そうだったな」
信玄は二人のそのことばに頷いた。そうしてであった。
あらためてだ。こう言うのだった。
「その義元殿の所縁の寺でだ」
「我等は盟約を結ぶのですね」
「北条殿とも」
「この盟約は我等の為の盟約である」
信玄もこのことは認めた。
「しかしだ」
「それ以上にですね」
「北条殿の為以上に」
「今川殿の為」
「その為のものであるかと」
「その通りだ。この盟約は義元殿の為にあるもの」
信玄はこのことを既に看破していた。そうしてであった。
そのうえでだ。こう言うのだった。
「そして西に向かうつもりだ」
「尾張ですな」
「さすれば」
「そうじゃ。尾張よ」
そしてそこに誰がいるのか、このことも言う信玄だった。
「尾張の織田だ」
「うつけとの評判ですが」
「それもかなりの」
「いや、わからんぞ」
ここで、だった。信玄は二人に背を向けたまま笑ってみせた。背を向けた形になっているので表情はわからない。だが笑ってみせたのである。
そのうえでだ。こう言うのだった。
「それはな」
「といいますと」
「まさか」
「話に聞くとその政は見事なもの」
彼は既にこのことを知っていた。伊達に戦国でも屈指の英傑ではない。
「そしてその戦もだ」
「そういえば尾張を瞬く間にですね」
「統一しました」
「そのうえで伊勢に調略を進めているという」
「ではあの者は」
「まさか」
「わしはそう見ておる」
信玄は言った。確かにだ。
「うつけなぞではないぞ」
「ではあの男もまた」
「やがては我等の前に」
「今川殿次第であろうな」
信長についてはこう言うのであった。
「やはりな」
「今川殿が尾張を取られればですな」
「それで」
「そうだ、それであの男は消える」
そうなってしまうというのである。
「そういた意味で今川殿次第だ」
「では殿」
高坂が信玄に問うた。
「今川殿は無事尾張を手に入れられるでしょうか」
「それは難しいだろう」
これが信玄の返答だった。
「織田は今一万五千の兵がある」
「はい」
「今川殿は二万五千だ」
「兵力では一万も優勢ですが」
「兵ではな」
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