第十二話 三国の盟約その一
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第十二話 三国の盟約
雪斎は何時になくせわしなく動いていた。その彼を見てだ。氏真が言うのであった。
「和上、やはりここはか」
「はい、甲斐の武田ともです」
「手を結ぶのじゃな」
「左様、結ぶ手は一つだけとは限りませぬ」
「二つでもよいか」
「より多くともいいのです」
こうも言うのだった。
「ですから」
「これで相模の北条と三国か」
「そうです。そしてです」
雪斎から氏真に話していく。
「我等はその同盟を後ろ盾にしてです」
「上洛か」
「その通りです。それを目指します」
「ふむ。さすればじゃ」
上洛と聞いてだった。氏真のその公家そのままの細面が綻んだ。そうしてそのうえで雪斎に対してこう語ったのであった。おっとりとした感じの声でだ。
「この駿府にいる公家の方々も都に帰られるな」
「その通りです」
「よいことじゃ。そしてあの方々にも屋敷を建てられるし。それにじゃ」
「それに?」
「都ではとりわけ戦乱に喘いでいると聞く」
氏真の顔がここで暗いものになった。
「それを終わらせ民に泰平をもたらすことができるな」
「あの、氏真様」
「何じゃ?」
「もしやと思いますが」
氏真のそのおっとりとした言葉に危惧を感じてだ。それで彼に問い返したのである。
「都にあがれば将軍になることも夢ではありません」
「そうじゃな。我が今川はな」
「はい、そのことは」
「当然わかっておる」
氏真はからからと笑ってそれはと答えた。しかしであった。
彼はここでだ。こうも言うのだった。
「しかしそれは民に泰平をもたらす為であろう」
「はい、左様です」
「その為の座にしか過ぎぬ。まずは民よ」
氏真の考えはここにはじまっていた。
「この駿河や遠江の様にじゃ。泰平にしなければならぬからのう」
「それがおわかりであればいいのですが」
「のう竹千代」
氏真はここでだ。共にいる元康に声をかけた。
「そなたもそう思うな」
「はい、確かに」
元康は畏まって氏真のその言葉に頷いた。そうしてそのうえであった。謹厳な口調でこう話すのだった。何処か堅苦しいものがそこにあった。
「そうでなければ。将軍となってもです」
「何の意味もない。麿もそう考える」
「そうであればよいのですが」
雪斎は己の若い主の言葉にだ。いささか不安を覚えていた。この主は戦を好まない。戦国に向かぬこの気性にそれを感じていたのだ。
それで言ったのである。だが今の彼はだ。
若い主のことだけではなかった。家全体の為に動いていた。そうしてであった。
武田と上杉の間に入ってである。和議を結ばせることに成功したのだ。
その時に謙信とも信玄とも会っている。この時だった。
謙信はその彼に対して
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