第十一話 激戦川中島その五
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雄々しくあくまで逞しい。その巨体を見せながら言うのであった。
「わしが武田信玄だ」
「左様ですか、では信玄殿」
「うむ」
「今ここで貴殿を見せて頂く」
右手で持つその剣で彼を指し示しながらの言葉だった。
「よいですね」
「うむ、それではだ」
「参る!」
「いざ!」
謙信はその剣を手に馬を駆る。そして信玄は。
右手に軍配を出してだ。それでだった。
謙信のその剣を受けたのだった。
「その軍配は」
「左様、鉄だ」
それでできているというのである。
「わしの軍配は鉄でできているのだ」
「そうですか、流石は甲斐の虎」
「どの様なものでも受け止めてみせる」
実際にだ。今謙信の剣を受け止めている。そうしてそのうえでまた言うのであった。
「では謙信殿」
「はい」
「それで終わりではあるまい」
こう謙信に問い返していた。
「そうだな」
「無論。では」
「むっ!」
「これならば!」
居合の要領でだった。剣を横から繰り出したのだった。
右から左へ。まさに疾風であった。だがその疾風もだ。
信玄は受けてみせた。その軍配で。鋼と鋼が打ち合う鋭い音がした。
「これでもですか」
「見事」
信玄は受けながら敵を褒めていた。
「これだけの剣は見たことがない」
「私もです」
「貴殿もだというのか」
「はい、私の剣を今まで受けた者はいません」
謙信はその流麗な顔で信玄を馬上から見据えていた。そのうえでの言葉だ。
「貴方がはじめてです」
「そうだったのか」
「貴方は私の敵に相応しい」
「わしもだ」
ここで信玄も言った。
「貴殿程の相手に会えたこと、幸福に思う」
「左様ですか」
「ここで勝敗を決するもよし」
信玄の言葉だ。
「だが」
「だが、ですか」
「それはできぬな」
「確かに」
謙信はだ。微かに笑ってだった。そしてであった。
上杉軍の後ろからだ。ときの声があがった。
その先頭にはだ。思わず見惚れてしまうまでの。恐ろしいまでに美しい男が武田の赤い甲冑と馬に乗り突き進んでいた。
「高坂殿!」
「間に合いましたな!」
「うむ!」
その美貌の男が後ろの者達の言葉に応えた。
「どうやらな」
「我が軍劣勢なれど!」
「持ちこたえています!」
報告が次々と届く。彼等はその間も駆けている。
そしてだ。上杉軍と戦闘に入った。
「この戦いやらせはせん!」
「武田の意地ここで見せようぞ!」
「いざ!」
そしてだ。上杉軍もだった。
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