第百十話 切支丹その九
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「国を手に入れるだけなぞどうということはない」
「さして面白くもありませぬか」
「その国を見事に治めてこそじゃ」
そうしてこそだというのだ。
「楽しいではないか」
「さすればですな」
「うむ、佐若山じゃ」
まずは大谷だった。
「そして観音寺じゃ」
「ではその二人を呼びますか」
「大谷とやらは呼ぼう」
彼についてはそうするというのだ。
「しかしじゃ」
「もう一人はですか」
「うむ、その者は寺におるならじゃ」
それならばだというのだ。
「わしが参る必要があるやもな」
「殿御自らがですか」
「うむ、そうしようと思うが」
「そうですな。それが宜しいかと」
古田は満ち足りた顔で頷き信長に答えた。
「ここは」
「そうじゃな。人材を得る為に労苦を惜しんではならぬ」
この観点から信長は多くの人材を集めてきているのだ、そしてそれは今もである。
「ならばじゃ」
「そうされますか」
「そうした方がよいのならな」
そうすると決めた信長だった。そして。
彼は高山達との話の後で己の部屋に戻りそこで帰蝶と茶を飲んだその茶の席で不意にこんなことを言ったのである。
「この茶はどうもな」
「何かありますか?」
「うむ、わしが淹れたが少し熱い」
手にしている碗の茶を飲みながらの言葉だ。
「しくじったわ」
「では少し冷まされますか」
「そしよう。しかしじゃ」
「熱い茶はですか」
「最初に飲むものではないな」
こう帰蝶に言う。
「やはり最初は然程熱くない茶じゃな」
「それを飲んでからですか」
「普通の茶にするべきかのう」
「左様ですか」
「御主もそう思わぬか」
帰蝶に対しても問うた。
「茶については」
「そうですね。私は茶の熱さよりも」
「他のことが気になるか」
「その濃さが気になります」
茶の濃さ、それがだというのだ。
「そちらの方が」
「そうじゃな。茶は熱さだけでなく濃さも大事じゃな」
「濃いものは口にすれば目が覚めます」
「一気にそうなるな」
「ですから茶は濃さが気になるのです」
「どちらの茶が好きじゃ」
薄いのと濃いのどちらがだというのだ。
「それで」
「その場合によります」
これが帰蝶の返事だった。
「やはり薄いお茶が欲しい時もあれば」
「濃いものが欲しい場合もあるか」
「はい」
そうだというのだ。
「それは殿も同じだと思いますが」
「そうじゃな。言われてみればのう」
「熱さだけではありませんね」
「量もじゃな」
それも関係があるというのだ。
「その都度違うわ」
「ですから」
「ふむ、そういうことか」
信長は己の妻の言葉に頷いた。そしてこうも言うのだった。
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