第百十話 切支丹その七
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「無駄な銭は使わぬが」
「足軽達の具足は必要ですな」
「何、それだけの力はある」
七百六十万石、それだけあればだ。
「それ位造作もないことじゃ」
「まずは人ですか」
「武田信玄じゃったな。人は城」
「人は石垣」
「そして人は堀じゃな」
「その通りです」
当然ながら竹中もこの言葉は知っている。信玄は己の館を堅城にするよりもその領国全体の守りを重視しその根幹に人材を置いているのだ。
武田二十四将と真田幸村に彼が率いる十勇士、そして天下に聞こえる精兵である武田五万の軍勢、その全てがなのだ。
「武田の備えとなっております」
「それじゃ。確かに城も必要じゃ」
「しかし第一は人ですか」
「如何な堅城でも守るのは人じゃ」
そしてそれ故にだというのだ。
「人を大事にせずして天下はないわ」
「さすれば具足を充実させ」
「南蛮のあの丸みと軽さも取り入れさせる」
そうした観点からの改善もしていくというのだ。
「そのうえでよい具足にしていくぞ」
「では」
竹中とこうした話をしてからそのうえでだった。
信長はあらためて高山、そして中川と会うことにした。見ればそこには二人の他にもう一人いた。
見れば何処かひょうきんそうな顔の、おかしな髭で笑った様な表情の男だった。信長はその男を見て二人に問うた。
「この者もじゃな」
「はい、織田家にどうかと思いまして」
「ここに呼びました」
「ふむ。ではまずは御主達の幼名を聞こう」
最初はそこから問うた信長だった。
「何じゃ」
「はい、彦五郎です」
「虎之助といいます」
高山と中川はそれぞれ名乗った。だが信長は中川のその幼名については少しいぶかしんでこう言ったのだった。
「あの者と同じじゃな」
「加藤殿ですか」
「だから呼び方を少し変えるがよいか」
「はい、それでは」
「虎助と呼ぼう」
『之』の部分を抜いてこう言ったのである。
「これからはな」
「ではその呼び名で」
「うむ、ではな」
こうして二人の呼び名を決めてからそのうえでもう一人を見た。信長は男のそのいささかひょうきんな感じの顔を見ながらこう言った。
「また面白い顔ですな」
「それがしの顔がですか」
「うむ。笑った様な顔じゃな」
「ですがそれでもでござる」
男は飄々とした感じだが確かな声で言ってきた。
「それがしも武士でございます」
「ほう、そう言うか」
「そして茶人でございます」
「茶とな」
「はい、武士であり茶人であります」
だからだと。男は信長にも毅然として返すのである。
「笑っていてもしかとしたものはあります」
「そう言うか」
「左様でございます」
「先程わしは御主の顔を面白いといったが間違いじゃ」
信長は不敵な笑みになり彼に返した。
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