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戦国異伝
第百九話 尾張者達その四

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「特にじゃな」
「はい、どの者が一番でしょうか」
「資質が最もよいものは」
「あの者じゃな」
 兎の兜を被っている長身で細面の者を見ての言葉だった。
「あの者じゃ」
「確か加藤清正といいましたな」
「それがあの者の名です」
「ふむ。加藤と申すか」
「やけに虎のことを言う者でして」
「槍の名人です」
「確かに槍は凄かったわ」
 信長も家臣達に話す。
「又左程ではないにしろな」
「それがし槍では誰にも負けませぬ」
 前田の方でも言ってくる。
「しかしそれでもです」
「その強さは認めるな」
「はい」
 前田は素直に述べた。
「そうさせてもらいます」
「ではこの者達は早速働いてもらおう」
 信長は速い、それは今回もだった。
「今からな」
「ではそうしまして」
「今はですな」
「これで終わりじゃ」 
 見極めてそしてだというのだ。
「では早速政じゃ」
「はい、それでは」
「今から」
 話が終わりすぐに政に入る織田家だった。
 新たに用いた者達もその政の中に入る。その中で城の普請にあたっていた羽柴はこう加藤達に対して言った。
「御主達やるのう」
「いえ、我等はそれ程までは」
「働けておりませぬ」
「とても羽柴殿の様には」
「できておりませぬが」
「ははは、やる気があればよいのじゃ」
 羽柴は謙遜する彼等に笑ってこう返した。
「それでな」
「やる気ですか」
「それさえあれば」
「うむ、よい」
「ううむ、しかしでいなければ」
「申し訳が立ちませぬ」
「ですから我等は」
 彼等はこう言うがそれでもだった。
 羽柴はその彼等に優しい笑みを向ける。そしてこう告げたのである。
「わしも大して歳は変わらぬぞ」
「それはそうですが」
「確かに」
 十代と二十代の違いだ。それは確かにあまり大した違いではない、もっと言えば低い垣根でしかない。羽柴はそれを言ったのだ。
「殿もまだ二十歳を超えられたばかりじゃ」
「我等と同じくお若いと」
「そう仰るのですか」
「平手殿は別じゃがな」 
 羽柴も彼のことを笑って話に出す。
「あの御仁は幾つかわからぬわ」
「またわしか」
 その平手からも言ってくる。
「全く。わしを年寄り扱いするのは猿も同じか」
「いえいえ、織田家の御意見番として」
「ふん、御意見番になるのも歳だからじゃ」
「まあそう仰らずに」
「全く。猿もわしを年寄り扱いとはな」
 平手は憮然とした顔を作って述べる、だが彼も新しく入った者達を見ている、そのうえでここで彼等の名前を口にした。
「加藤清正」
「虎之助じゃな」
 信長は幼名で言う。
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