第百八話 茶の湯の南蛮人その九
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「こうした素晴らしいものは消してはいけませんね」
「大友氏の話か」
「そう思います、絶対に」
「そうじゃな。それでなのじゃが」
「はい、九州のことですか」
「暇があったら調べておくとしよう」
信長は強い目になって述べた。
「もっとも今は他の家を調べねばならんがな」
「周辺の大名ですか」
「さしあたっては朝倉かのう」
信長が最初に出したのはこの家だった。
「やはりな」
「朝倉家ですか」
「あの家と当家は昔から仲が悪い」
その仲の悪さも有名だ。今では織田家が圧倒的な勢力を誇っているがそれでも織田家にとって朝倉家はまさに目の上のたんこぶである。
その朝倉家の中でも信長はとりわけこの老人を意識していた。
「朝倉家で最も恐ろしいのは宗滴殿じゃ」
「朝倉宗滴殿ですか」
「もう八十近いが今だに負け知らずじゃ」
「齢八十に近くなってもですか」
「うむ、まだ負けを知らぬ」
信長jは確かな顔で話す。
「初陣からのう」
「それはまた凄いですね」
「敵の数がどれだけ多くともじゃ」
「勝ってきているのですか」
「そうなのじゃ」
それが宗滴だというのだ。
「朝倉家は主は特に大したことはないがのう」
「確か朝倉家の主は」
「知っておるか」
「義景殿でしたね」
「わしはあの御仁は特に気にしておらぬ」
肝心の当主はというのだ。
「実のところはな」
「織田家とは違って」
「南蛮の大名、いや領主じゃったか」
「貴族ともいいますが」
「その者達でもそうしたことがあろう」
「そうですね。当主が凡庸であっても」
これだけ義景を痛烈に批判した言葉はないがフロイスはこの言葉を意識して出した訳ではない。意識せずに言っているのだ。
だがまさにその通りだ、義景はそうした者なのだ。
「その親族や家臣の方が秀でているということはあります」
「そういうことじゃな」
「それで朝倉家もなのですか」
「宗滴殿が要じゃ」
あくまで彼がだというのだ。
「しかし当主がそうした御仁じゃからな」
「歪なところがありますね」
「宗滴殿がいなくなってもう柱がなくなる」
ここでは要と柱は同じ意味である。
「どうということはないであろうな」
「そうでありますか」
「しかしどうであろうな」
信長はふと話の調子を変えてきた。
「その宗滴殿とわしは一戦交えるやも知れぬな」
「そうなりますか」
「若しやな」100
これは信長の直感から出た言葉だった。
「そうなったら果たしてどちらが勝つであろうな」
「朝倉殿の兵は」
「二万じゃ」
越前一国で八十万石、まさにそれだけである。それに対して織田家は十九万、石高で七百六十万石だ。圧倒的である。
力の差は歴然だ、だが信長はそれでもこう言うのだ。
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