第百八話 茶の湯の南蛮人その六
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「断じて」
「真でおじゃるな」
「嘘は言いませぬ。我々はそうした術を黒魔術と呼びますが」
「そうした術を使う者はおらぬと」
「はい、おりません」
「ならよいがな」
近衛はフロイスのその確かな目と謹厳な態度を見て彼が嘘を吐いていないことを見抜きそのうえで述べた。彼も伊達に公卿の筆頭核ではなくそうしたことを見抜く目も備えているのだ。
それ故に彼もここで頷いてこう言ったのである。
「貴殿の言葉信じさせてもらうでおじゃる」
「有り難うございます」
「しかし織田殿」
近衛はその黒魔術というものには青い、公家の白い化粧でもそれが出てしまっている顔で信長に対しても言う。
「貴殿はこうした術を信じられぬでおじゃるか」
「以前はそうでありましたが」
確かに以前はそうだった。だが。
信行のことを思い出しその上でこう近衛に答えた。
「今は違います」
「信じられるでおじゃるか」
「左様です」
「では人や世を安らかにさせる術はともかく」
「そうした左道はですな」
「断じて許さぬ様頼みますぞ」
「心得ております」
信長も確かな顔で答える。
「そうしたものを放っておいては天下万民の害となります故」
「異朝のことでございますが」
利休もここで言う。
「信長様は独孤の猫のことを御存知でしょうか」
「隋代の話じゃな」
信長は利休に顔を向けて答えた。
「皇后の弟が猫を使った妖術で悪を為そうとしたことじゃな」
「その姉である皇后を殺そうとした話です」
「漢の武帝の頃もそうした話があったのう」
「はい、あの時は木の人形を使って」
どちらにしても魔道を遣ったことは事実だ。あの国にしてもこうした話は多いのだ。
「そして恐ろしい禍を引き起こしました」
「そうじゃったな。おぞましい話じゃ」
「だからです」
「ああした術が嘘偽りではないことはわしも知っておる」
「では」
「滅多におらぬがそうした者がおれば容赦せぬ」
これが信長の魔道への考えだった。
「わしが必ず成敗するわ」
「そうして頂くと何よりです」
「それもまた政じゃ」
信長は確かな声で言う。
「しかし南蛮にもそうした術があるか」
「はい」
フロイスは今度は信長に述べる。
「それは確かです」
「そうした術はどの国にもあるのう」
「その様ですな」
「そうした術が入ってはならぬでおじゃる」
近衛はまたこう言う。今の顔には余裕が微塵もない。
「全く。生贄を使う術となれば」
「そうした術は決まっていますな」
山科も近衛に応えて言う。
「間違いなくです」
「うむ、己の為によからぬことを為す術でおじゃる」
「左道はそれ故に左道でありますな」
「人は己以外に何かをするからこそ徳を高められるでおじゃる」
近衛はしみじ
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