第百八話 茶の湯の南蛮人その四
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「ここにフロイスがいることに」
「織田殿、これはどうも」
近衛はいぶかしむ顔で信長に言う。そうしながら彼も山科も茶室の真ん中に来て座る。そうしてからもさらに言う近衛だった。
「いささか」
「意地が悪いと言われるか」
「悪戯が過ぎますぞ」
意地悪とは言わなかったがこう言った。
「全く織田殿が悪戯好きなのは知っていましたが」
「お気を害されたか」
「そうではありませぬが」
とはいっても憮然とした顔を見せているのも確かだった。
近衛はその顔で信長にさらに言うのだった。
「麿達は織田殿と話をしに来たのですが」
「ではこの者と会うのは」
「思いも寄りませんでした」
「しかしそれでもでござる」
信長は胸を張りその近衛に返す。
「一度話をされては如何でしょうか」
「本朝の言葉は通じるでおじゃるか」
「はい」
信長ではなく他ならぬフロイスは言ってきた。
「ある程度ですが」
「いや、これは」
近衛はそのフロイスの話を聞いて述べた。
「中々よいでおじゃるな」
「上手く話せていますか」
「左様。それでフロイス殿」
近衛はフロイスを如何にも胡散臭いものを見る目で見ながら彼に語る。
「都に教会を建てるでおじゃるな」
「信長様からお許しを得ました」
「ではよいでおじゃるが」
近衛は退いたと見せてこうも言った。
「しかし麿から言いたいことがあるでおじゃる」
「それは何でしょうか」
「他の神社仏閣の悪口は言わず手出しもせぬこと」
「そのことですか」
「他の宗派を害することがないようお願いするでおじゃる」
近衛はキリスト教を仏教の一派や神道の八百万の神の様に考えているふしがある。それで今宗派と言ったのである。
フロイスもその辺りは察した。だがそのことはあえて言わず近衛の話を聞いた。
「そのことさえ守ってもらえれば」
「宜しいですか」
「うむ、宜しいか」
「神に誓って」
フロイスは近衛にすぐに答えた。
「そうしたことは一切しませぬ」
「しかし九州ではじゃ」
「大友様のお領地のことですか」
「知っておるか」
「聞いております。神社仏閣を壊していっているとか」
「そんなことは断じて許さぬでおじゃる」
公卿筆頭の近衛としてはそうしたことを許す訳にはいかない。摂関家として多くの寺社と関わってきているからだ。
それ故にここでも言わずにはいられない。だからこそフロイスに言うのである。
「そもそも何故耶蘇教の者は他の神社仏閣を壊すでおじゃるか」
「そうした考えの者もいまして」
「左様か」
「少なくとも私と同志達は違いますので」
「約束するでおじゃるな」
「先程も申し上げましたが神に誓って」
フロイスは神の名を出して近衛に述べる。
「そうさせて頂きます」
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