第百六話 二条城の普請その十二
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「そうなればじゃ」
「また切ることができますか」
「そうじゃ。殿はそこまで考えておられるのじゃ」
「深いですな」
「全くじゃ」
今度は二人で唸った。ここで村井はその前野にまずは彼の名前を出してそのうえでこう言ったのだった。
「しかし喜太郎よ」
「はい、何でしょうか」
「御主も最初はただの武辺者だったがのう」
「それが変わったといいますか」
「うむ、変わったな」
実際にそうだというのだ。
「それもかなりな」
「まあそれがしも戦のない時は常に政にあたっております故」
「それでか」
「はい、そのせいでしょう」
こう村井に答える。握り飯を次々に頬張りながら、
「やはり政もまた」
「知ることか」
「そう思いますが」
「まさにその通りじゃ」
村井もこう答える。
「政も大事なのはじゃ」
「知ることですな」
「そういうことじゃ。では飯を食い」
村井も食っている。前野の様に次々とではないがやはり結構な数の握り飯を食っている。そうしながらの言葉だった。
「その後でじゃ」
「昼もですな」
「夕暮れまでやるそうじゃ」
「その頃まで。ですか」
「まあ時間はそんなところじゃな」
「ですな。しかし仕事の流れが」
前野は時間だけでなくそれも見て言う。
「かなりですな」
「うむ、囃しがあるだけでな」
「随分と違います」
「この調子でいけば二条城はすぐじゃ」
完製まで然程時間はかからないというのだ。
「そして室町第も完成させてな」
「公方様に差し上げて終わりですな」
「それでな。ただ少し気になるのは」
村井もこの男については顔を顰めさせて話す。
「松永久秀はのう」
「あの御仁ですか」
「うむ、ここにも来ておるがな」
見れば少し離れたところにその男が立っている。織田家の家臣達とは共におらず己の家臣達と共にいる。
その彼を見て村井はさらに言う。
「よく来たものじゃ」
「確かに。それは」
「御主もそう思うな」
「主家を滅ぼし義輝様を殺し」
「そして奈良の大仏も焼いたな」
「戦国の世とはいえあまりにも悪逆です」
「よくぞそこまでしたものじゃ」
村井も平手や柴田達と同じである。松永については全く信用していない。
そのうえで前野にこう言った。
「隙あらばな」
「斬りますか」
「そうも考えるがのう」
「それがしもです」
前野の剣呑な目で松永を見ている。彼の背中を見ているがその背中をどうするかというのだ。
「あの者だけは」
「一刻も早くな」
「取り除くべきだと思いますが」
「しかし殿はそうされぬ」
これが織田家の家臣達が思い止まる要因だった。信長が動かぬならば。
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