第百六話 二条城の普請その七
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そして義昭はさらに言うのだった。
「ならよい。それでじゃが」
「はい、二条城ですな」
「その普請のことじゃ」
義昭は己の前に控える信長に告げる。右手に持っている閉じられた扇子がその都度右に左にせわしなく動く。
「早速取り掛かるか」
「そうさせてもらいます」
「急ぐ様にな」
義昭は厳しい顔になって言うが迫力はない。
しかしそのことに気付かないままこうも言うのだった。
「さもなければじゃ」
「また敵が何処からか」
「来るかわからぬ。だからこそじゃ」
「わかりました」
それではだという信長だった。こうしてだった。
早速二条城の普請がはじまる。雇った人夫達が右に左に動く。その人夫達については丹羽が林にこう話した。
「殿が褒美は弾めと」
「銭をか」
「それに加えてです」
銭だけではないというのだ。
「飯は白い飯をたらふく食わし」
「飯もか」
「味噌や干し魚、それに梅も用意し」
「それはまた奮発じゃのう」
まだ味噌や梅は高い。それで林も言うのだ。
「殿はこうした時は大盤振る舞いをされるが」
「それに加えてです」
「まだあるのか」
「年貢は軽くする様にと」
人夫達も百姓だ。その為収めねばならない年貢があるがそれをだというのだ。
「半分程にせよと」
「それもか」
「とかく普請の際は人夫には奮発せよと」
信長は言っているというのだ。
「そうせよと仰っています」
「成程な。ただ人を雇うだけではないか」
「その際に雇う者達にふんだんに振舞えと」
「こうした時にこそ銭を使うか」
「殿らしいですな」
「それがしもそう思います。この普請はかなり銭がかかりますが」
それでもだというのだ。
「それだけのものはあるかと」
「そうじゃな。公方様をお守り出来る様になるだけでなく」
それに加えてだった。
「人の心も得られるな」
「かなり大きいですな」
「うむ、大きい」
こう言う林だった。
「お見事じゃ。普請は特にな」
「特にといいますと」
「史記の話であるな」
林がここで出したのは明の古典だった。信長もよく読んでいるその書である。
「始皇帝の話じゃが」
「あの皇帝ですか」
「阿房宮に万里の長城に色々築いたな」
「他には己の墓も」
「とかく多く築いた」
始皇帝はそうした大きなものを築きたがった。巡幸と共に彼が力を入れたものなのだ。
「そしてそれがじゃ」
「国を滅ぼしましたな」
「他にも色々と重なってじゃがな」
重税にその普請への徴用への負担、占領された国々の民達の秦への不満、そうした者が重なった結果秦は滅んだのだ。
だがその中でもだと林は言うのだった。
「宮殿なり墓なり長城なりな」
「そうした普請が続けば」
「国が傾く」
まさに
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