第百六話 二条城の普請その三
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「まずな。しかし強訴に二条城に来てもな」
「城を固めていればですな」
「問題ない。では堅固な城にしようぞ」
こうした話をしていた。しかしその城について信長は首を傾げさせてそうしてこんなことを言った。
「しかしのう」
「しかしですか」
「さっきも言ったが人は城じゃ」
「人ですか」
「今の幕府にはな」
その人がいなかった。多くの者を抱えるだけの力も残っていないのだ。
それ故に幾ら二条城を堅固にしてもだというのだ。
「あれではのう」
「確かに。幾ら堅固でも」
「城を護る人がおらん」
そうだというのだった。
「足軽ですらもな」
「おりませんな、殆ど」
「本当に全くおらん」
何しろ幕臣達の殆どが織田家からも禄を貰いそれを糧にしている位だ。幕府からの禄なぞないに等しい。
僅かに残った幕臣達ですらそうだ。それならだった。
「護れるかのう、果たして」
「ではやはりいざという時は」
「都に置いておる兵達じゃな」
その一万の軍勢で以てだった。
「あの者達を速やかに二条城に入れてじゃ」
「公方様をお護りしますか」
「そうしようぞ」
「幕府は嘉吉の乱、応仁の乱で大きく衰え」
平手の言葉には嘆きも入っている。幕府の権威の衰退を思ってのことだ。
「そしてですな」
「義輝様がああなってな」
「はい、今やその力は」
「あの有様じゃ」
最早国すらない状況だ。支配している地域もごく僅かだ。
「応仁の乱で治めておるのは山城一国という有様じゃったがな」
「そこで義輝様がああなられて」
「最早幕府はな」
僅かな禄にすら困る、そうした有様にまで落ちぶれていた。そうした幕府だからこそだというのだ。
「二条城位しかなくなるであろうな」
「ですな。そしてですか」
「その二条城じゃ」
信長は言う。
「今から築こうぞ」
「人のいない城ですな」
平手はまた言った。
「そうなりますな」
「幕府にはもうな」
「人がおりませぬか」
「おることはおる」
明智や細川達だ。しかし彼等もなのだ。
「数が少な過ぎるしのう」
「ですな。確かに」
「今の幕府は小さな庭じゃ」
信長は遠くを見ている目で述べる。
「都だけじゃ」
「天下を治めることはもうですか」
「幕府はな。しかし」
ここでこうも言う信長だった。
「わしは義輝様が好きじゃった」
「一目で殿を見抜かれたそうですが」
「人は己を認めてくる方に対して心を向ける」
信長もまた然りだ。だからこそ彼は父を敬愛しておりそして義輝もまた敬愛していたのだ。それ故に今でもなのだ。
「あの方のおられた幕府はな」
「お好きですね」
「うむ、何とか盛り立てたい」
これが信長の偽らざる本音だった。
「どうにかな」
「ですか。では
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