第百五話 岐阜に戻りその十三
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「何故弾正を嫌わぬ」
「そのことですか」
「そうじゃ。わしは一度用いた者は疑わぬ」
信長は自分が松永を用いる理由も述べた。
「それまでに見極めておるからじゃ」
「そしてそれがしはどうしてですか」
「そうじゃ。御主は何故あの者と仲がよいのじゃ」
こう言うのだった。
「それはどうしてじゃ」
「いや、それがしは実際に松永殿とお話したのですが」
それからというのだ。
「よい方です」
「ふむ。それでか」
「何故他の方があそこまで嫌うのか」
わからないというのだ。羽柴にしてみては。
「わかりませぬ」
「兄上は昔からそういうところがありますな」
秀長がここで兄に顔を向ける。
「全く。人がよいのにも程がありますぞ」
「御主も松永殿を嫌うのう」
「当然だと思いますが」
「わしもじゃ」
蜂須賀もいた。彼も言うのだった。
「御主が誰とも接することができるのはよいがじゃ」
「それでもか」
「相手を選べ、流石にな」
松永だけはというのだ。
「まずいぞ、あ奴は」
「ううむ。そうかのう」
「かなりな」
「兄上、あの者だけはです」
秀長も言う。信長の前で話す三人だった。
「仲良くされるのは」
「全くじゃ。何かあってからでは遅いぞ」
「殿もです」
秀長は主である信長にも言う。相手が誰であろうと諌言するのが彼だがそれは己の主に対してもなのだ。
それでだ。信長に厳しい顔で言うのだ。
「我等を信じて下さることは有り難い」
「しかしか」
「あの御仁だけは」
どうしてもだというのだ。
「何時何があってもおかしくないですぞ」
「毒でも入れられるか」
「実際にそうしたこともありますぞ」
「はい、その通りですぞ」
蜂須賀も信長に言う。忍らしからぬ大柄な身体を怒らせて。
「あの者は謀略が常ではありませぬか」
「そう言われておるな」
「その通りです。ですから」
「小六もそう言うのう」
「若しあの者におかしな素振りが僅かでもあれば」
この辺りは佐々と同じだ。彼もまた信長に対して絶対の忠誠を持っているのだ。
それ故に信長にこう言うのである。
「遠慮なくあの喉を掻き切りますので」
「だからそれはな」
「そうじゃ。幾ら何でも剣呑過ぎるぞ」
信長だけでなく羽柴も笑って蜂須賀に言う。
「あの者は何もせぬわ」
「それ程悪い御仁ではないぞ」
「そうとは思わんがな」
これが蜂須賀の見る松永だった。
「家の中に蠍を置く様なものじゃぞ」
「いやいや、今の松永殿は安心してよい」
羽柴はここでも笑って言う。
「まことにな」
「そうかのう」
「裏切るにしてもじゃ」
ここでこうも言う羽柴だった。
「これまではそうじゃったな」
「ですからです」
「それがまずいので
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