第百五話 岐阜に戻りその十
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「そういうことじゃ」
「わかりました。それではその様に」
帰蝶も信長のその考えに微笑みで頷いた。こうした話をしたのだ。
そして城では茶を飲んだ。その茶は帰蝶が淹れたが信長は久々に飲む妻の茶に目を細めさせて言った。
「やはり帰蝶の入れた茶はよいな」
「有り難うございます」
「美味じゃ。まことによい」
「ではもう一杯お淹れしますね」
「そうしてくれ」
「では。ところで」
その茶をもう一杯淹れながら帰蝶はこんなことを言った。
「一つ宜しいでしょうか」
「何じゃ?」
「堺の千利休殿ですが」
「うむ、あの者か」
「何でも素晴らしい方だとか」
「只の茶人ではないな」
信長は利休についてはすぐにこう答えた。
「あの者もやはりじゃ」
「素晴らしい方ですか」
「茶においては誰にも引けは取らぬ」
「そこまでの方ですか」
「必ず茶の道を築き上げるであろう」
利休がそうするというのだ。
「生きておる間にな」
「それを成し遂げると」
「そうするであろうな」
「ではあの方もまた」
「わしと同じくじゃ」
大きなものを築く者だというのだ。信長は己の家臣にした利休をそうした視点から大きく認めていた。そしてそれを帰蝶に対して言うのである。
「それに学識もあり人を見る目もある」
「そちらからもですね」
「役に立つ者じゃ。政が出来る者は幾らいても足りぬ」
特に織田家の場合はそうだ。二十の国の政に朝廷や寺社とも折り合いをつけていかねばならない。内にも外にもやることが多い。
だからだ。利休もまた然りだというのだ。
「有り難い者じゃ」
「左様ですか」
「うむ。存分に働いてもらう」
「それはいいことですね。しかし大和の」
「あの者か」
「松永弾正殿ですが」
帰蝶もだった。彼については曇った顔で信長に述べる。
「やはり身近に置かれるのは」
「危ういというのじゃな」
「はい」
そうだというのだ。
「あの方のこれまでのことを考えますと」
「まさに悪逆非道じゃな」
「何時寝首をかかれるかわかりませぬ」
帰蝶も松永はそうした者だと見ていた。あまりにも危険な者だとだ。
だから信長にさらに言うのだった。
「申し上げにくいことですが」
「すぐにじゃな」
「除かれるか。それはできなければ」
「追放か」
「そのどちらかにすべきです」
「どちらでもない」
これが信長の返事だった。
「どちらもせぬ」
「追放もですか」
「殺しもせぬ」
こう言うのだった。
「このまま用いる」
「ですがそれは」
「危ういというのじゃな」
「他の御仁ならともかく」
帰蝶も松永についてはこう言うのだった。
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