第百五話 岐阜に戻りその六
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「伊達政宗ですね」
「あ奴も気になる。特に」
「特にとは」
「やはり本願寺じゃ」
ここでもこの寺だった。石山御坊にいる。
「あの寺の主の顕如じゃがな」
「あの御仁が何か」
「他の大名達よりも気になる」
語る信長の目も自然に鋭いものになっていた。
「あの者、わしに似ておるのか」
「殿にですか」
「会うたことはない」
それは一度もなかった。また境を接したのも近頃になってからだ。
だがそれでもだとだ。信長は言うのだ。
「しかし感じるのじゃ」
「近いとですか、殿に」
「うむ、感じる」
信長はまたこう言った。
「聞くところによるとな」
「殿の様な方が他にもおられるのですか」
「天下は広い」
信長が非常によく認識していることだった。それは上洛以降さらに強く確かなものになっている。
「その中にはわしに似ておるものもおるわ」
「器もですか」
「あの顕如は若しや天下を握れるやもな」
本願寺、即ち仏の世界からそれができるのではないかというのだ。信長は顕如の資質を見抜いていた。まだ会ってはいないが。
それでだ。こう言うのだった。
「わしがおらねばな」
「殿がおられるからですか」
「あ奴一人でわしに対することができる」
信長、彼個人にだというのだ。
「それは出来るがな」
「しかしですね」
「わしはわしだけではないわ」
不敵な笑みになった。そのうえでの言葉になる。
「わしにはあの者達がおるからのう」
「家臣の方々ですね」
「爺もおれば勘十郎もおる」
まずは信長を常に補佐するこの二人だった。やはりこの二人の存在は信長にとってはなくてはならぬ者達だ。
その二人からはじまりさらにだった。
「権六も五郎左も久助もおるしのう」
「当家には人が多いですね」
「牛助に新五郎もおれば又左もおるわ」
この面々もいた。
「与三に勝三郎も頼りになる。あと猿もおるわ」
「羽柴殿ですね」
「あれで中々働いてくれる。確かに猿そっくりじゃがな」
信長は羽柴については笑って述べる。
「他にも大勢おるしのう」
「殿にはそうした方々がおられるからこそ」
「だからじゃ。顕如が例えわしに対することができてもじゃ」
「殿はお一人ではありませんね」
「多くの家臣だけではない。同じだけ有り難い者達がおるわ」
「民達ですね」
「それに兵達じゃ」
彼等もまた信長にとっては頼りになる者達だというのだ。
「あの者達もおるしのう」
「民もまた、ですね」
「そういうことじゃ。わしの力になってくれる」
「では本願寺に対しても」
「出来れば戦は避けたい」
それはだというのだ。信長は本願寺に対しても出来るだけ戦は避けようと考えていた。これは他の相手とも同じだった。
しかし戦国の世だ。
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