第十話 信行の異変その五
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信長はその男を見てだ。彼に直接問うた。
「津々木と申すのだな」
「はい」
男は信長の問いに対して一言で答えた。低い、地の底から響き渡る様な声であった。
その声で答えてだ。また口を止めるのであった。
信長はその口をつぐんだ男にだ。自分からさらに問うた。
「国は何処だ」
「山城です」
「京か」
「はい、都に生まれました」
そうだというのであった。
「そして尾張に流れ着いてきました」
「そういえばだ」
信長はその持ち前の鋭さを見せてだ。男のあることに気付いたのだった。
「その喋り方はだ」
「何かあるでしょうか」
「都の訛りがあるな」
それをすぐに見抜いたのである。男の無口な言葉からもうそれだけのことをだ。
「少しな」
「おわかりになられますか」
「京の者も尾張に来ることがあるからな」
だからだという信長だった。
「それでだ」
「拙者だけではありませぬか」
「そういうことだ。それにしても」
信長はまた言った。
「その訛りはあまりないな」
「都を離れることも多かったので」
「仕官の為に歩いておったか」
「左様です」
「ふむ、左様か」
ここまで聞いてまた頷く信長だった。そのうえでだ。
津々木に対してさらに問うた。
「では、だ」
「はい」
「御主は何を得意としておる」
次に問うたのはこのことだった。
「一体何をだ」
「刀を」
それをだというのだ。
「それと軍略を少々」
「ふむ、戦は得意か」
「これまで何度も戦の場で首を挙げております」
「ではだ。その剣の腕見せてもらおう」
信長は己の目で見てそのうえで決断を下す男だ。だからこそだ。ここで津々木に対してだ。実際にその剣の腕を見せよと命じた。
早速試し斬りの為の藁束が持って来られる。それに対してだ。
津々木の剣が一閃してだ。太い藁束を真っ二つにしたのだった。
その剣の腕はだ。信長の家臣において個人的な武勇を謡われる慶次や森長可をしてだ。唸らせるに足るものであった。
「これは本物だな」
「わしの剣の腕に匹敵するな」
二人共こう言うのだった。そしてだ。
信長もだ。納得した顔で述べた。
「見事」
「では。宜しいでしょうか」
「そなたを用いよう」
こう津々木に告げた。
「よいな」
「有り難き幸せ。それでは」
「勘十郎の身を護れ」
信行のだというのだった。
「勘十郎が見出したのだからな」
「それがしのですか」
「そなたもこれから戦場に出ることが多い」
これはその通りだった。信行も乱世に生きている。実際に信長の下にいてだ。彼もまた戦の場に出ることがこれまでにもあった。
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