第百四話 鬼若子への文その十
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「我等のことに気付いたな」
「はい、流石にあの二人はです」
「騙せませんでした」
「高僧は苦手じゃな」
「英傑もですが」
「ああした連中もまた」
「陽の世界の者は苦手じゃ」
それが苦手だと言う松永だった。
「いや、陰もじゃがな」
「陰と闇は違うもの」
「それ故に」
「まつろわぬ完全な闇こそ我等じゃ」
松永は彼等以外の誰もが気付いていないことをよいことに家臣達にこんなことを述べたのであった。
「完全な、な」
「そうですな。我等はです」
「まさに完全な闇です」
「まつろわぬが故の闇」
「そしてその闇にとっては」
「日論こそが最も忌むべきものじゃ」
松永はここで空を見上げた。そこにはその日輪がある。白く輝くこの世の全てを照らしている。
その日輪を見ながらだ。松永はこんなことも言った。
「しかしのう」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「何時までも闇におるのもどうかのう」
こう己の家臣達に言ったのである。
「そうも思わぬか」
「いえ、それは」
「そうは思いませぬが」
しかし家臣達はこう返した。
「我等は闇の者です」
「それ故に光は求めませぬ」
「日輪は特にです」
「求める筈のないものですが」
「そうじゃな。そうなるな」
家臣達の言葉に松永も頷く。
「やはりな」
「左様です。しかし近頃そんなことを仰いますが」
「何かお考えなのですか?」
「一体」
「殿をどう思う」
やはり日輪を見上げ続けながらの言葉だった。青天の中にあるその日輪を。
「我等が殿を」
「殿ですか」
「どう思うかですか」
「わしは嫌いではない」
松永は信長に対する本音を今口にした。
「決してな」
「ううむ、言われてみれば我等もです」
「殿は嫌いではありませぬ」
「いや、嫌いになれぬといいますか」
「そうした方です」
「そうじゃな。殿を見ているとな」
さらに言う松永だった。
「嫌いにはなれぬな」
「人を惹き付けて離れぬようにします」
「そうした方ですな」
「日輪はそういうものやも知れぬな」
また日輪だった。松永が出した言葉は。
「そして殿も」
「しかし織田家は我等にとって害になるでしょう」
「まさにこの天下を大きく変えようとしています」
「そして我等の存在に気付くやも知れませぬ」
「そうなれば」
「わかっておる」
松永は承知と返した。
「そのことはな。それでもじゃ」
「殿に惹かれておりますな」
「我等は」
「どうもな。離れられぬわ」
またこう言う松永だった。
「暫くは殿と共にいられる」
「しかしやがては」
「どうしても」
「それもわかっておる。それでもな」
今度は信長を見た。先に進む彼を。
「あの殿を見ておると心が楽
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