第百四話 鬼若子への文その四
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「だからじゃ。よいな」
「檀家というものを整え寺社をそこで生きさせて」
「荘園や僧兵はなくしますか」
「そうしていきますか」
「岐阜に帰ればその政もはじめる」
それは早速だというのだ。
「そうするぞ」
「ううむ。寺社もですか」
「大きく変えますか」
「これまで寺社は中々手がつけられんかった」
これは奈良に都があった頃からだ。とにかく寺社に対しては誰も中々手をつけることができなかったのだ。ただしだった。
「六代様は違いましたな」
「義教公じゃな」
「はい。あの方は」
林が述べたことだった。
「違いましたが」
「そうじゃな。六代様は違ったな」
足利義教は関東だけでなく寺社に対しても容赦なく色々と呵責なき手を打ってきた。これにより寺社はかなり抑えられたのも事実だ。
だがその義教については信長は顔を曇らせてこう言った。
「しかしあの方はのう」
「よくありませんか」
「あれはよくないであろう」
これが信長の考えだった。義教に対する。
「どうもな」
「あまりにも惨いですか」
「確かに血を流さねばならぬ場合もある」
このことは信長もよくわかっていた。戦国の世にあって血を流さずに済むということはまず有り得ないからだ。
信長自身多くの戦を経ている。だが彼はこう言うのだった。
「それでも最低限じゃ」
「最低限の血でよいと」
「そうじゃ。あそこまで惨く血を流してはならぬ」
こう言って義教のやり方を否定する。
「あれは悪逆じゃ。身分の低い者にも勘気で色々とやっておったな」
「とかくそうした話の多い方でしたな」
「そうしたことをしてはならん」
信長はまた言った。
「ああしたことをしては決してじゃ」
「では殿は」
「寺社を押さえるのもまた戦になるやも知れぬ」
このことも念頭に置いてのことだ。
「しかしそれでもじゃ」
「血が流れないに越したことはありませぬか」
「出来るだけな。あの方は血を流すことを好み過ぎた」
「その結果として、ですか」
「赤松氏に殺されたのじゃ」
嘉吉の乱だ。有力な守護大名もまた次々と潰していた義教に赤松氏が危惧を覚え殺される前にと将軍である彼を自身の屋敷に招きそこで殺したのだ。
ここから幕府はその威信を大きく落とす。そのきっかけともなった乱だ。
信長はその乱についても言うのだった。この様に。
「ああなっては元も子もないわ」
「では」
「うむ。わしは妄りに刃は振るわぬ」
己を律する為の言葉でもあった。
「決してな」
「だから長曾我部にもですか」
「降ればそれでよい」
戦をしないに越したことはないというのだ。
「土佐はこれ以上血を流さなく手に入れられる」
「そして長曾我部元親とその家臣達もですか」
「そういうことじゃ。
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