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戦国異伝
第百四話 鬼若子への文その二
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「誰も嘘は言わぬわ」
「それがしもそう思います」
 信行も兄と同じ見立てだった。やはり嘘を言っても何の意味もない状況だからだ。延暦寺にとってそうだからだ。
「あの寺の僧兵達ではありませぬ」
「そもそも闇の色の法衣か」
「延暦寺のものではないかと」
「違う。延暦寺の法衣の色ではないわ」
 このことは信長も言えた。
「断じてな」  
「それがしもそう思います」
「ではどの寺じゃ」
 信長はさらに考えていた。
「その僧兵共は」
「それがしにもまだ」
 実際に干戈を交えた彼にしてもだった。
「わかりませぬ。死んだ者達もいましたが」
「骸は手に入らなかったのじゃな」
「はい、全て持ち去られました」
 彼等が退く時にそうされてしまったというのだ。
「見事な退き際でした」
「采配も確かか」
 信長は骸も全て持ち去ったことからこのことも見抜いた。
「ふむ。そうなると」
「普通の寺の者達ではないかと」
「それは間違いない」 
 信行にも述べる。
「絶対にじゃ」
「そうです。しかしどの寺かといいますと」
「そこまで見事なのは雑賀位では」 
 ここで言ったのは滝川だった。
「あの者達がいますが僧兵ではありませぬ」
「雑賀は忍びじゃ」
 信長も雑賀については知っている。その名は天下に知られている猛者達だからだ。
「本願寺についておるな」
「はい、その頭目は雑賀孫一といいますが」
「代々雑賀衆を率いておるそうじゃな」
「その様です。その雑賀はただ強いだけでなく」
「その雑賀孫一の指示で的確に動くそうじゃな」
「鉄砲も使いますがそれだけではありませぬ」 
 その統率が非常によいというのだ。雑賀衆はその強さと鉄砲の扱いだけでなくそこからもかなり強いというのだ。
 このことを話してからだ。滝川はこう言った。
「他にはあの者達位です」
「骸一つ残さず去れる者達はな」
「僧兵でそこまでといいますと」
「御主も心当たりがないか」
「はい」
 滝川は信長にその通りだと答えた。
「ありませぬ」
「そうじゃな。それはわしもじゃ」
 信長もそうだった。首を捻っての言葉だった。
「どうにもな」
「殿もですか」
「まことに何者じゃ」
「わかりませぬな。まことに」
「何者なのか」
 闇の法衣というものに不吉なものを感じていてもそれでもだった。信長も家臣達もあの曾兵達が何者なのかはわからなかった。彼等の正体は不明のままだった。
 だがそれでもだ。信長はここで話を戻した。その長曾我部のことだ。
「さて、鬼若子じゃが」
「はい、では今より行って参ります」
 林がすぐに応える。
「長曾我部が本陣としている城にまで」
「うむ。文を持ってな」
「わかりました。では」
「小竹と十二郎もじゃ」

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