第百三話 鬼若子その十五
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信長も愚かではない。こう全軍に告げた。
「今じゃ!」
「攻めますか!」
「ここで!」
「その通りじゃ。ここで決めるのじゃ!」
土佐を手に入れそしてだというのだ。
「よいな。今こそじゃ!」
「はっ、わかりました!」
「では!」
家臣達も応える。そうしてだった。
織田家は全軍で長曾我部の軍勢に襲い掛かった。十万を超える大軍が一斉に動いたのだ。だがそれより先に。
元親は全軍に告げた。自ら後詰に回りながら。
「駆けよ!城までな!」
「そこまでですか!」
「一気に!」
「そうじゃ、駆けよ!」
こう告げたのである。
「後ろはわしが持つ、皆逃げよ!」
「しかし殿、それでは殿が」
「これだけの軍勢に襲われては」
「わしを誰と思うておる」
何とか残ろうとする家臣達にだ。元親は毅然として返した。
「鬼若子じゃぞ」
「鬼若子だからこそ」
「ここはですか」
「鬼は人にやられはせぬ」
あえて出した言葉だった。胸を張って。
「だからじゃ。行くのじゃ」
「では殿、後で」
「城で会いましょう」
「酒の用意をしておけ」
元親は不敵な笑みさえ浮かべて述べた。
「よいな。それではじゃ」
「はい、それでは」
「城で」
家臣達もその元親に応えてそのうえで一斉に駆けだした。その速さは織田家の者達の予想以上だった。
そして後詰の元親は自ら槍を振るい家臣達を逃がす。それを見てだった。
山内が怪訝な顔になりそのうえで信長に言った。
「殿、長曾我部元親自ら槍を振るっていますが」
「それでじゃな」
「はい、敵の大将自ら槍を振るって戦うというのは」
軽率ではないかというのだ。それが山内の考えだった。
「上杉謙信は常に刀でそうしていますが」
「越後の龍はのう」
「あの御仁はまた特別です」
伊達に軍神と呼ばれてはいない。そうした無謀なことも謙信だからこそできるのだ。尚謙信は戦の場で傷一つ負ったころがない。
「そうしたことをしても」
「大丈夫じゃな」
「あの御仁だけは。しかしです」
「あの者がそうしておるのはか」
「いささか軽率ではないでしょうか」
山内は迫る織田の兵達に槍を振るい続け奮戦する元親を観続けていた。信長も彼と同じくそうしている。
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