暁 〜小説投稿サイト〜
戦国異伝
第百三話 鬼若子その十二
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

「よいか。道は開いておる」
「はい、確かに」
「それではですな」
 信長が開けさせた道だ。足軽達は今も左右に開いたままだ。それは川が左右に開いている姿そのままだった。
 その開いた川と川の間に長曾我部の軍勢と長可の騎馬隊がいる。その彼等の衝突今まさに迫ろうとしていた。
 その騎馬隊の先頭にいてだ。長可は馬で突き進みながら言うのだ。
「このまま進む。しかしじゃ」
「しかし?」
「しかしとは」
「槍が来るぞ」
 先程まで好きなだけ暴れていた長曾我部の槍がだというのだ。
「あれがのう」
「ううむ、馬に槍となると」
「厄介ですぞ」
 騎馬武者達は顔を顰めさせて述べた。
「それが来るとなると」
「ここは」
「いや、やり方はある」 
 長可は冷静そのものの声で彼等に述べる。
「これはこれでな」
「といいますと一体」
「どうされるのですか?」
「こちらもやりの使い方はある」
 こう言うのだった。
「突く、叩く、それ以外のやり方がな」
「といいますとそれは?」
「どうやるのですか?」
「投げよ」
 そうせよというのだ。彼等が手にしている槍をだ。
「よいな。そうせよ」
「槍を投げるのですか」
「我等の持っている槍を」
「今はですか」
「そうじゃ。槍を投げるということはまずない」 
 少なくとも日本には殆どなかった。だから長可もこう言ったのである。
「しかしここはじゃ」
「投げますか」
「そうされますか」
「敵の思わぬやり方でいく」
 つまり虚を衝くというのだ。ここでもだ。
「そうするぞ」
「そうして勝ちますか、ここは」
「この戦は」
「うむ、弓でもよいがな」
 騎馬から弓を放つやり方はあった。源平の頃はそうして戦うことも多かった。戦国の世では今一つ廃れてはいるがだ。
 実際に織田の騎馬隊も弓は持っていない。だからこそ槍を使うのだった。
「ここは槍じゃ」
「はい、それでは」
「槍で」
 武者達も頷いてだった。それぞれ槍を利き腕に持ってそれから振り被る。そのうえで槍を投げる。しかしその投げられた長曾我部の軍勢は。
 その槍が投げられようとしているのを観た元親がこう告げた。
「散れ、すぐにじゃ」
「散る!?」
「散るのですか」
「それも思いきり後ろに下がってじゃ」
 そうしてだというのだ。
「思い切りな」
「しかし退くというのは」
「それは」
「よい。今はな」
 元親は退くのもよいとした。
「そうせよ」
「退いてそのうえで」
「散るのですか」
「さもなければ死ぬぞ」
 これまで突き進めとしか言っていなかった元親の話だ。
「よいな。ここは下がって散ってじゃ」
「助かれと」
「生きよと」
「死中に活あり、しかし死は避ける」
 だからだというのだ
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ