第百三話 鬼若子その九
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「このままではです」
「長曾我部の者達を撃てません」
「あそこまで入り混じっておりますと」
「味方を売ってしまいますぞ」
「そうじゃな。考えたものじゃ」
実際にこう返す明智だった。
「ここはどうするべきか」
「鉄砲は使えませぬ」
「これでは」
「うむ。撃てぬ」
明智自身も言う。
「このままではな」
「ではどうされますか」
「ここは」
「だからといって何もせぬつもりもない」
こう言ってだった。明智は己が率いる足軽達に告げた。
「刀を抜け」
「刀を」
「そうしてですか」
「長曾我部の軍勢に切り込む」
鉄砲とはうって変わってだ。それをするというのだ。
「そうするとしよう」
「あの長曾我部の軍勢に切り込みますか」
「そうされますか」
「そのうえで丹羽殿をお助けする」
こうも言う。
「そうするぞ」
「畏まりました。それでは」
「切り込みますか」
「案ずることはない」
明智は織田家の兵達が鉄砲や長槍等を使いそれで出来るだけ敵を近付けずに戦うやり方に慣れていることを知っている。他には弓矢もよく使う。これは自身が率いる兵の弱さを知っておりかつ出来るだけ損害を出さずに勝とうという信長の考えからきている。
明智はこのことを知っていて尚だ、彼等に刀での攻撃を命じたのである。そしてそれは何故かも言った。
「数は我等の方が上。それに」
「それに?」
「それにとは」
「我等は横から攻める」
ひたすら正面を攻める長曾我部軍の横をだというのだ。
「横から攻められた兵は脆い。そこを衝く」
「ううむ、そうされますか」
「横からですか」
「だからだ。臆することはない」
自分達の評判を知っている織田の兵達にさらに告げた。
「死ぬことはない。三人で一人に当たれ」
「そうして攻めればですか」
「勝てますか」
「うむ、勝てる」
明智は断言もしてみせた。しかも口だけではなかった。
自ら刀も抜きそのうえで敵に向かう。それに織田の兵達も続く。
その横から来る織田の兵達を見てだ。長曾我部の者達が声を挙げた。
「横から来たぞ!」
「刀を抜いて来ているぞ!」
「ふむ。そうして来たか」
それを見ても冷静な元親だった。その冷静なままで自身の率いる兵達に命じたのだった。
「槍をあちらにも向けよ」
「横から来る兵達にもですか」
「槍を向けますか」
「うむ、向ける」
そうするというのだ。
「そしてそのうえでじゃ」
「あの者達を防ぎ」
「そのうえで」
「このまま攻め続けよ。怯んではならん」
それだけは許さないといった口調だった。
「よいな。何処から敵が来てもじゃ」
「戦う。そうされますか」
「一万で十万以上の敵を相手にするのじゃ」
しかも正面から攻め込んだ。
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