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戦国異伝
第十話 信行の異変その三
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「清洲、岩倉、そして犬山を征しです」
「大殿以来の悲願が果たされましたな」
「まるで夢の様です」
「ははは、夢か」
 今言ったのは川尻であった。その彼の言葉にだ。信長は顔を崩して笑ってだ。こう言うのであった。
「夢ではないぞ」
「しかし。まさかこうも瞬く間にです」
「確かに。この前清洲に向けて兵を出したばかりだというのに」
「もう尾張統一とはです」
「信じられません」
「しかし事実だ」
 信長は確かな顔で家臣達に話した。
「今それが果たされたのだ」
「清洲も岩倉も犬山もひとかたならぬ勢力でしたが」
「その三つを瞬く間に併呑しましたから」
「そのうえは」
「まずは政に専念する」
 信長はここでもそれを第一に考えていた。
「尾張の水を治めることも大事だ。それには」
「はい」
「それには」
「まずは二郎」
 九鬼の名を呼んだ。当然彼もそこにいる。
「そなたと。そして」
「そして」
「小六」
 彼の名前も呼んだのだった。
「そなたの川側衆も役立ってもらうぞ」
「川を治めるのですか」
「この尾張、古来より水には悩まされてきた」
 川が多いのが尾張の特徴だ。それによって豊かな土壌が与えられてきた。しかしそれと共にだ。水害にも悩まされてきてきたのだ。
 信長はそれを治めようと考えていた。それで水に強い二人に声をかけたのだ。
「そなた等はそれぞれ水を知りそこに住んでいる者達を下に置いている」
「さすれば。我等の技をですか」
「川を治めることに」
「使わせてもらう。よいな」
「はっ、それでは」
「喜んで」
「川を治めそして」
 信長はさらに言う。
「やはり開墾は進める」
「それもですね」
「田畑を開墾しそれまであるものはさらに豊かにし」
「そうじゃ。街もさらに栄えさせる」
 そちらも忘れてはいなかった。
「よいな。尾張は治めれば治める程豊かになる」
「だからこそですか」
「政に力を入れられると」
「そうなのですか」
「そしてじゃ」
 信長はまた言った。
「この尾張を」
「どうされますか」
「無論尾張だけで終わるつもりはない」
 これは信長自身がいつも言っている通りであった。それはもう言うまでもないとだ。言葉の間にあえて入れてそれで言葉に出さずに言ってみせたのである。
 そしてだ。彼は言うのであった。
「尾張を拠点にしてだ」
「天下を」
「そうされますか」
「そこから天下を一つにしてだ」
 そしてだ。信長の夢を語ってみせた。
「この国に再び平和を取り戻すのだ」
「民も戦を恐れずに済みますね」
「それによって」
「まずは尾張の民からになるな」
 その彼等であった。
「富ますぞ」
「はい、では」
「我等も及ばずながら」
「そうするぞ。武田信玄
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