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戦国異伝
第百二話 三人衆降るその五
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「その時にお願い申す」
「そうですか。勝った時に」
「長曾我部に勝った時に」
「その時にですか」
「そして殿が来られた時に」
 信長もだった。
「その時にお願い申す」
「わかりました。それでは」
「その時にお願いします」
「是非共」 
 こうした話をしたうえでだ。森が率いる織田家の軍勢は阿波を南に下っていく。その途中で蒲生と森長可が森に言ってきた。
 今彼等は阿波の者達を含めた一万以上の軍勢の先頭に馬で進んでいる。二人は中央にいる森に言ってきたのだ。
「若し長曾我部と会った時ですが」
「その時はどうされますか」
「まずは干戈は交えぬ」
 森は左右から言ってきた二人に答えた。
「それはせぬ」
「ではまずは待つ」
「殿を待たれますか」
「ここで下手に動けば阿波を失うからのう」
 その観点からだ。森は慎重策を選んでいるのだ。
「だからじゃ。よいな」
「はい、それでは」
「その様に」
「御主達は戦がしたいであろうがな」
 森は若い二人を見てこうも言う。どちらかというと己の倅である長可の方をよく見ていた。彼は今織田家において若き猛将とまで呼ばれているのだ。
 その倅を見てだ。森はまた言った。
「しかし。耐える時は耐えよ」
「正直。戦がしたいですが」
 長可も話洗って応える。
「しかしそれはですな」
「うむ、それはな」
 致し方ないというのだ。今は。
「そういうことじゃ」
「わかっております。しかしです」
 一度戦になったその時はだというのだ。
「暴れさせてもらいます故」
「その時は好きなだけそうせよ」
「では」
「まずは阿波と土佐の境まで目指す」
 阿波を守ることを考えれば当然のことだった。
「そうするぞ。よいな」
「そしてその境で」
「守る」
 森は今度は蒲生に答えた。
「そうするぞ」
「畏まりました。それでは」
「さて。それにしても長曾我部か」
 森もまたこの家の名前を出して言う。
「姫若子から鬼若子になったのう」
「ですな。かつてはどうにもならないと思われていましたが」
「今では土佐の主です」
「瞬く間に土佐一国を手中に収めてしまいました」
「まさに激流の如く」
 そうしてしまったとだ。蒲生と長可が森に話していく。
「その兵は一万に達するとか」
「しかもかなりの強さとか」
「強いのは確かであろうな」
 それは森も見ていることだった。
「やはりな」
「左様ですか。強いですか」
「鬼若子とその軍勢は」
「迂闊に戦になっては敗れる」 
 森は確かな顔で述べていく。
「ここは守っていくぞ」
「そして殿が到着されれば」
「その時こそ」
「戦の時じゃな。それまでは守りを徹し何が何でも動かぬ」
 そうするというのだった。
「では」

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