第十話 信行の異変その一
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第十話 信行の異変
信長は犬山城に達していた。そこに着くとだった。
城の方はまだ何の用意もしていなかった。信長の大軍を見て驚く始末であった。
「何だと!?弾正の軍勢がか」
「来たというのか」
「まさか、そんな筈がない」
その襲来を信じない者すらいた。
「岩倉の伊勢守の軍勢と戦っていたのではないのか?」
「よしんば勝ったとしてももう来るとは」
「そんなことは有り得ぬ」
「あまりにも早過ぎる」
「そうだ、その通りだ」
「しかしだ」
ところがだった。彼等とて現実は認めなければならなかった。現実というものは何よりも説得力のあるものだ。だからこそであった。
既に白は信長の軍勢に取り囲まれている。青い旗に槍、それに鎧が城の周りを染め上げていた。
それを見てだ。顔に深い傷のある男が言った。
「まさか弾正めはだ」
「はい、おそらくは」
「岩倉は既にです」
「そしてそのうえで、です」
「そうだな、間違いないな」
その傷の男織田信清は苦い顔で答えた。
「だからこそこの犬山まで来たという訳か」
「弾正、どうやらです」
「うつけではないようですな」
「そのようだな」
信清もだ。ことここに至ってはそのことを認めるしかなかった。
そしてであった。取り囲まれた己の城とその取り囲む城を見てだ。周りにいる家臣達に対してこう問うのであった。
「最早外にうって出るのは無理だな」
「残念ですが」
「それは適わぬかと」
家臣達の返答はどれもこうしたものだった。
「弾正の兵は八千はいます」
「それに対して我等はです」
「千もおりませぬ」
まだ戦の用意は充分ではなかった。これから集めるところだったのだ。
「それに支城との連携もこれでは」
「おぼつきません」
「美濃に連絡はできるか」
信清の今度の問いはこれであった。
「それはどうか」
「いえ、美濃はです」
「確かに我等とはつながりがあります」
信清は信長以外にも美濃の斉藤と縁の深い男だったのだ。それで援軍も期待できた。しかし今はそれも、なのであった。
「弾正はあの蝮の娘婿です」
「それを考えるとです」
「美濃もです」
「無理か」
信清もこのことを認めるしかなかった。
「左様か」
「無念ですが」
「その通りです」
家臣達もこう答えるしかなかった。
そしてだ。今度は自分達から信清に対して問うのであった。
「それで殿」
「ここはどうされますか」
「一体」
そしてであった。現実も話した。
「我等の兵は千にも足りません」
「それに対して弾正は八千です」
「しかも完全に取り囲まれています」
信清にとって悪いことばかりであった。
「弾正は戦においてはかなり苛烈な様です」
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