第九十九話 都での戦いその十
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己を指差した同僚を指差し返してだ。こう言ったのである。
「こいつそんなことを言って実はです」
「おい、わしは重いぞ」
「いや、わしの方が重い」
「わしもじゃぞ」
他の足軽達も参戦してきた。
「わしばかり何故重いのじゃ」
「御主ばかり軽いのを持つな」
「わしの馬が疲れるではないか」
「全く。ずるい奴じゃ」
騒ぎは妙に騒がしくかつ銘々が勝手に言い合うものになっていた。これには池田も森も閉口してしまった。だが信長はというと。
至極落ち着いた声でだ。足軽達にこう言ったのである。
「ではわしが荷物を見よう」
「えっ、殿がですか」
「我等の荷を御覧になられるのですか」
「うむ、そうする」
信長は確かな声で答えた。
「そのうえで決める。ではよいな」
「はい、殿がそう仰るのなら」
「我等はそれで」
「異論なぞある筈がありません」
それまで騒いでいた足軽達も信長がそう言うとだった。急に大人しくなり。
そうしてだ。こう言うのだった。
「ではお願いします」
「それがし達の荷を見て下さい」
「どの者のものが重いか軽いか」
「それを確かめて下さい」
「うむ、任せよ」
信長はすぐにだ。それぞれの荷をその手で持ってみて確かめる。そのうえでこう言ったのだった。
「どれも同じじゃ」
「同じ重さですか」
「そうなのですか」
「うむ、変わらん」
こう言ったのである。
「重くも軽くもない。だから安心せよ」
「そうですか。ではです」
「我等はこのまま進ませてもらいます」
「妙なことを言って申し訳ありませんでした」
これで足軽達も頷いてだ。大人しくまた荷物を運びだした。織田軍は信長が大急ぎで軍を進ませていた。都に凄まじい速さで進んではいた。
第九十九話 完
2012・7・12
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