第九十九話 都での戦いその三
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
だからだとだ。細川は言うのである。
「ですからあまり」
「あてにはならぬか」
「はい」
そうだというのである。
「都は我等だけで守る覚悟が必要です」
「織田の兵がおるのにか」
「はい、当然信行殿も危急の時には駆けつけて下さいますが」
「数はおるな」
「一万は」
それだけの兵をだ。信長は信行に預け都の守りにしているのだ。しかしその一万の兵はどうかというのだ。
「しかし。信行殿は」
「兵を動かすのは不得手か」
「ですので」
「しかし一万もおるのであろう」
「そのことは確かです」
「では何があっても大丈夫ではないか」
「戦は確かに数です」
細川は言った。戦にとって大事なものを。
「しかし数だけではです」
「勝てぬというか」
「そうです。様々なことが重なって戦というものは行われますから」
それ故にだというのだ。
「数だけでは勝てるとは限りませぬ」
「何じゃ、一万もおってもそう言うか」
「若しも一万、そして幕府の兵以上の数が来ればどうされますか」
「その時は守るしかあるまい」
義昭は素っ気無く答えた。
「この本国寺にでも立て篭もってな」
「そうです。その時はです」
「しかしそんなことが起こる筈がない」
またこう言う義昭だった。
「落ち着いていけばな」
「何ということはないと」
「そうじゃ。何もないわ」
また言うのだった。
「安心せよ。都はもう脅かされぬわ」
「では幕府にも恐れるものはないと」
「ないわ」
はっきりとだ。義昭は答えた。やはり今も馳走を食いながら。
「そんなものはないわ」
「ですか」
「うむ、全くない」
こう言うのだった。あくまで。
「何もな。天下は再び治まり」
「幕府は安泰だと」
「そうじゃ。信長がそうしてくれるわ」
彼の臣下であるだ。信長がそうするというのだ。
「何も問題はないわ」
「では今は」
「さあ酒も飲むぞ」
顔は既に赤くなっているがだ。さらにだというのだ。
赤い杯の中の酒を美味そうに飲みながらだ。義昭は言う。
「どんどん注げ。飲んでいくぞ」
「畏まりました」
細川は今はこう言うだけだった。義昭はただひたすら飲んでいく。そうして山海の珍味に能、狂言を楽しみながら元旦を過ごしたのである。
次の日義昭は遅くまで飲んでいた。しかしだ。
不意にだ。彼は大声で起こされたのだった。
「公方様、大変です!」
「兵が来ております!」
「何じゃ一体」
幕臣達の駆け込んできた言葉にだ。義昭はその手で額を押さえながら応えた。
「余は飲み過ぎた。茶を持って参れ」
「茶どころではありません」
「何じゃ、茶はないのか」
「茶はあります」
流石に何の力もなくともだ。将軍ならば茶位は飲める。それで義昭も茶を
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ