第九十八話 満足の裏でその七
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「あの方の場合は」
「公方様といえば武家の棟梁じゃが」
「本来はそうした欲とは無縁なのですが」
「人それぞれか。いや」
「いや?」
「幕府があの有様ではな」
幕府は最早完全に形骸化している。山城一国すら治められない。そうした何の力もない有様ではだとだ。信長は考える顔になり言うのである。
「それも致し方ないか」
「ああして小さな欲を求められてもですか」
「爺、御主は今は何を求める」
「それがしですか」
「そうじゃ。何を求める」
「そうですな。茶器も馬もいいものはもう持っておりまする」
平手の茶道への心得と茶器を見る目は織田家の中でもかなりのものだ。実は信長に茶の道、それを勧めたのも実は彼だったのである。
だから茶器についてはかなりの目を持ちよいものを持っている。しかしだというのだ。
「ですがもう」
「そうしたものは充分か」
「禄もですな」
それにも満足しているというのだ。
「それがしは何の不満もありませぬ」
「では何を求めるか」
「ただ。殿がこのままです」
「わしか」
「はい、今以上によい殿になられることです」
ご意見番に相応しいものだった。彼が求めるものは。
「そのことを求めております」
「何じゃ。わしか」
「はい、殿です」
「何と。わしにどうなれというのじゃ」
「お戯れを止められることです」
「傾いてはいかんのか」
「今や殿は十六国、その民と兵達を治める大大名ですぞ」
瞬く間にそうなった。最早天下に最も近い立場にいる。
だがそれでも傾くことにだ。平手は顔を顰めさせて言うのである。
「それで何故傾かれるのか」
「それを言うか」
「はい、ですから」
「わしに大人しくなれというのか」
「真面目になられることを望みます」
「傾くことが駄目とはのう」
信長は平手のその求めることにはだ。難しい顔で返した。
そしてだ。こう言うのだった。
「無理じゃ、それはな」
「無理と言われては何もできませんぞ」
「ううむ、ここでまた小言か」
「それがそれがしの求めること故」
信長に傾かず常に真面目な大名になって欲しいというのだ。ここでも平手は平手だった。
そしてその平手にだ。信長はこう言うのだった。
「まあそうじゃな。そうした願いというか求めることもじゃ」
「よいというのですな」
「爺の求めるものはわしにとっては辛いが」
それでもだというのだ。
「大きいものではあるな」
「銭や禄よりもですな」
「宝よりもな」
それよりもだというのだ。
「公方様には宝も献上したことがあったが」
「随分と喜ばれておったとか」
「そうじゃ。それもかなりな」
「しかし殿、そうしたものもです」
「そうじゃ。やはり小さなものじゃ」
信長は宝についてもこう述べた
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