第九十八話 満足の裏でその五
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「それに織田殿は領民達に慕われています」
「ですな。新たに領地にした国々でも」
摂津や大和、播磨といった国々でもだというのだ。
「領民達は織田殿に懐きだしていますな」
このことはかなりのものだった。織田家の領地に加えられた国の民達は信長の善政の前に彼に敬愛の念さえ覚えていたのだ。信長は政においてこそ力を発揮していた。
そうしたことも見ているからだ。今度は細川が言った。
「このままではすぐにです」
「播磨や丹波といった国々の民達もですな」
「完全に織田殿になびきます」
義昭ではなくだ。彼にだというのだ。
「何しろ政をしておられるのは織田殿ですから」
「その通りです。天下はようやく一つになろうとしています」
「そしてその中心におられるのが」
「はい。織田殿です」
他ならぬ彼だとだ。明智は言い切る。
「あの方しかおられません」
「そうですな。まさに」
「幕府は。これからは」
「やはり織田家にもたれるしかありませんが」
「公方様はよしとなされません」
絶対にだった。このことは。
「それならばです」
「やがては。何時の日かは」
「そうなった時のことを考えましょう」
明智は今度は真剣な顔で細川に顔を向けて述べた。
「今のうちに」
「そうですな。どうするのかを」
幕臣達の中で先が見える者達は考えだしていた。これからどうしていくべきかを。
だが今のところ信長と義昭の間柄は良好だった。それで信長はこう家臣達に述べたのである。
「公方様が何かを言われるとじゃ」
「その都度ですか」
「うむ、銭や米をお渡ししよう」
こう平手に言ったのである。二人で幕府のことについて話していたの。
「爺もそれでよいな」
「宜しいかと。ただ」
「ただ?何じゃ」
「幕府だけではありませんぞ」
平手は広いものを見る目で信長に述べたのである。
「都となればです」
「うむ、朝廷もじゃな」
「朝廷もおろそかにしてはなりませぬ。ただ」
「公方様がじゃな」
「今の公方様、それがしはまだ御会いしたことはありませぬが」
それでもだというのだ。平手は義昭について怪訝な顔で話した。
「どうも。権六達の話を聞いていますと」
「勘気の強い方だというのじゃな」
「しかもです。幕府にのみ目が向かうことを望まれている方ですな」
「そうじゃ。どうもそういうところのある方じゃ」
「さすればです」
どうかとだ。平手はさらに話す。
「天秤を御覧になられることです」
「天秤か」
「どちらかがより重くなってはなりませぬ」
「幕府をないがしろにせず、じゃな」
「朝廷を敬われることです」
その二つを共にだというのだ。平手はここでこうも言った。
「つまり中庸です」
「儒学じゃな」
「殿も儒学を読まれて
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