第九十七話 都の邸宅その四
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「まさに軍神じゃ。まともに対することができるのは武田だけじゃ」
「その武田のみですか」
「甲斐の虎だけですか」
「無論わしも互角の兵では勝てぬ」
信長はこれまた腕を組み難しい顔になって述べた。
「三倍はないとのう」
「三倍ですか」
「それ程までですか」
「上杉は侮るな」
これは過大評価ではなかった。信長は上杉謙信をよく知っていた。彼のこれまでの戦い、武田や北条、そして本願寺と戦い負けを知らぬそれを見て言っているのだ。
「あれだけ戦に強い者はこれまでこの国におらんかったかも知れぬ」
「坂上田村麻呂や八幡太郎以上ですか」
「源義経や楠正成よりも」
「そうした者達と互角の兵でぶつかってもじゃ」
どうかとだ。信長は真顔で言う。
「負けぬであろうな」
「ううむ、まさに軍神ですな」
「兄上にそう言わせるまでとは」
「その通りじゃ。勝てぬわ」
また言う信長だった。
「兵が互角ではとてもな」
「その上杉の備えですか」
「やはりその意味でも」
「この岐阜は重要じゃ。そして東の端にあるとはいえ」
今の織田家の領地のそこにあろうともだというのだ。
「確かに交通の便はよいからのう」
「ではそれ以上に交通のよい場所ですか」
「そこに新たな城をというのですか」
「うむ。交通の要なら商人達も集り栄える」
まずはそこから見ていた。これが信長の見るものだ。
「あと土地が肥えていると尚よい」
「この美濃以上に」
「肥えている国ですか」
「近江や和泉になるか」
そうした国だというのだ。
「石山なぞは気になるな」
「和泉といっても摂津にあると言っていいですな」
「あの大きさですと」
「石山は周りは肥え陸の便も水の便もよい」
だからこそ本願寺もそこを拠点に置いているのだ。石山は人も行き来している。そうした場所なのだ。
「あと近江じゃな。それにじゃ」
「まだありますか」
「他にも条件が」
「やはり武田、上杉にすぐに動ける」
とにかくこのことがだ。信長は兵のことでは念頭にあった。
「そうした場所じゃな」
「とにかくその両家ですか」
「織田家を脅かすのは」
「そうじゃ。あと四方にすぐに兵を送られればよいな」
このこともあった。
「やはり行き来のよい場所。それに都を見られて守れる場所じゃ」
「都を守れる」
「それもありますか」
「大鏡等は読んだな」
急にだ。信長は弟達に古典の名前を出した。
「都についてよく書かれている書をな」
「そういえばああした書にはよく」
「人ならざる者達が出て来ます」
弟達はお互いに顔を見合わせて言い合った。
「あやかしの類に怨霊」
「都はとかくそうした話が多いです」
「都はそうしたものから守られている筈じゃ」
信長の顔は怪訝なもの
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