第九十七話 都の邸宅その二
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「公方様には公方様のお考えがあってもな」
「都から政は執れませんか」
「うむ。わしの領国全体を見たいしのう」
「では。ご邸宅を置かれて」
「そこには殆ど入らぬ」
そうするというのだ。これが信長の考えだった。
そしてだった。和田もその考えを聞いてこう返した。
「では公方様には」
「確かに都に邸宅は置く」
命には従うというのだ。絶対にだ。
「そうするぞ」
「ではその様に」
「これでよいと思うが」
「はい、言われてみれば」
和田もだ。信長の話に笑顔で頷く。
「それがよいですな」
「そうであろう。やはり都の中に入るのはじゃ」
「よくありませんな」
「治めるのは都だけではないからな」
とにかくこのことが大きかった。信長が治めるべきものは今の時点においては手中に収めた十六の国だ。それだけの国を治めねばならないからだ。
それでだ。信長は都の中には留まらないというのだ。
「ではその様にな」
「公方様にもお話しておきます」
こうしてだった。和田は義昭に信長との話のことを知らせた。それを聞いてだ。
義昭は満足している顔で笑ってだ。こう言ったのであった。
「おおそうか、信長は都に邸宅を置くか」
「はい、確かにそうされるとのことです」
「よいぞ。やはり都に邸宅がなければな」
「しかし織田殿は多忙であられるので」
「何、どうなるのじゃ」
「都におられることは少ないと思われますが」
「ううむ、そうなのか」
和田のその話を聞いてだ。義昭はすぐに顔を曇らせてこう述べた。
「それは残念じゃのう」
「何しろ治めることになった国が多いので」
「そうじゃな。尾張や美濃だけではないからのう」
「十六国です」
この国の数がまた言われる。尾張に伊勢、志摩と美濃に飛騨にだ。
大和に伊賀、摂津、河内、和泉に摂津に山城、そして丹波と丹後、若狭と近江の南半分だ。これで合わせて十六国となるのである。
まさに天下随一の勢力となった。それだけにというのだ。
「都に留まっては全体を治められませんので」
「左様か。ではじゃ」
「はい、そのことは御了承下さい」
「では信長は基本的には美濃におるのじゃな」
「岐阜に」
拠点であるだ。そこにだというのだ。
「しかし何かあればすぐに出られますので」
「わかった。それではじゃ」
「はい、その様に」
こうした話をしてだった。義昭も納得した。これで都の邸宅の話は終わった。
信長にとってはこのことは何でもなかった。だが、だった。
彼は岐阜において考える顔でだ。弟の信包と信興に対してこんなことを言っていた。
「今は国を急に広げたな」
「そうですな。それによりです」
「我等はかなり強くなりました」
二人の弟達はこう述べる。
「しかし政がです」
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