第九十七話 都の邸宅その一
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第九十七話 都の邸宅
政を進める信長のところにだ。幕府から使者が来た。それは和田だった。
和田は信長に一礼してからだ。こう彼に告げたのである。
「実は公方様からお願いがありまして」
「ふむ。何じゃ」
「都のことですが」
こう前置きしてからだ。信長に話すのである。
「今都を整えていますが」
「銭ならどれだけでも出すぞ」
「いえ、公方様がこの度仰るのはそうしたことではなく」
「違うというのか」
「はい、織田殿のことです」
和田は畏まりながら信長に告げる。
「織田殿は今この岐阜におられますが」
「それがどうかしたのか」
「都にご邸宅はありませぬな」
「そういえばそうじゃな」
「それでなのです」
和田は信長にあらためて言う。
「公方様は是非にとお願いしています」
「ううむ。都か」
そう言われてだ。信長は難しい顔になった。座は和田はこの時将軍の名代で来ているので上座になっている。しかし和田の姿勢は低姿勢だ。
その和田にだ。信長は言うのだ。
「どうものう」
「都はお嫌いですか」
「嫌いではない」
そのことは否定した。
「むしろ再建してよい街にしたい」
「そうお考えですか」
「そうじゃ。しかし都の中におるのはじゃ」
それがだ。どうかというのだ。
「どうも様々なややこしい政の中に自ら入るからじゃ」
「よくないというのですか」
「どうもな」
また言う信長だった。
「都は外から見たいのじゃ」
「そのうえで政をされたいのですね」
「そうじゃ。わしはそう考えておるのじゃがな」
「しかしそれではです」
どうかとだ。和田は信長にあえて言う。
「よくはないかと」
「公方様がどうしてもと仰るのじゃな」
「はい」
まさにその通りだというのだ。和田は一言で答えた。
「左様でございます」
「そうか。ではじゃ」
「ご邸宅を都に置かれますか」
「都にも置こう」
これが信長の返事だった。
「そうしよう」
「都にも、ですか」
「確かに都に邸宅は置く」
義昭の願い通りだ。そうするというのだ。
だがそれでもだとだ。信長は言うのである。
「しかしわしはやはり都に入るよりもじゃ」
「都から離れてですか」
「そうして都全体を見たいのじゃ」
そして政をしたいというのだ。信長は政の観点から話す。
「その様にな」
「ではご邸宅を置かれても」
「入ることは殆どないであろう」
「この岐阜に留まられますか」
「そもそも岐阜からは迂闊に離れられぬ」
信長はこれまで明るい顔だったがその顔をだ。ここで曇らせた。
そのうえでだ。こう言ったのである。
「すぐ東に武田がおるのだぞ」
「あの武田がですか」
「しかも北には上杉
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ