第九話 浮野の戦いその九
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「馬鹿な、こうまで容易に敗れるとは」
「と、殿。最早戦どころではありませぬ」
「一刻も早く岩倉の城に戻るべきです」
「そして篭城を」
「そうじゃな」
信賢は青くなった顔で彼等の言葉に頷いた。
「それではな」
「はい、それでは」
「何とかここを下がりましょう」
「岩倉の城まで退け!」
その逃げ惑うばかりの己の軍勢に告げた。
「よいな!」
「は、はい!」
「わかりました!」
兵達も彼の言葉は聞いた。そのうえで城の方角を目指し逃げる。だがまたしてもだった。
「鬼柴田ここにあり!行くぞ!」
「権六殿に遅れるな!進め!」
右から柴田の軍勢が出て左から丹羽の軍勢が出てだ。彼等を攻めるのだった。
合わせて十の軍と信長の軍勢が同時に攻める。信賢の軍は最早どうにもならなくなっていた。
それでも何とか岩倉まで逃げ延びた。だが城はすぐに信長の軍勢に囲まれてしまった。
それを見てだ。信賢はあらためて家臣達に問うのであった。
「辰之助と小太郎は」
「まだです」
「まだ城に戻られてません」
こう答える家臣達だった。
「そして城は完全に囲まれております」
「このままでは」
「城を枕に切り死にか」
信賢は嘆息と共にこう言った。
「止むを得ぬか」
「では我等もまた」
「共に」
家臣達も主の覚悟に続こうとした。しかしここで、であった。
その城を取り囲む信長の軍勢からだ。こう言ってきたのである。
「何っ、城を明け渡しわしが尾張を出て出家すればか」
「左様です」
「我が殿はそう仰っています」
使者に来た佐久間重盛と林通具が彼に話す。
「ですからここはです」
「どうか御判断を」
「腹を切るつもりだが」
ここで信賢はあえてこう言ってみせた。
「主としての責を受けてな」
「いえ、それには及びません」
「それだけでよいとのことです」
そうだというのである。二人の言葉ではそうだった。
「尾張から出られ出家にされればです」
「御家族も城内の兵達もです」
「全て助けるというのか」
「はい、左様です」
「それが我等の殿の御考えです」
そうだというのであった。それを聞くとであった。
信賢は一旦目を閉じた。そしてそれからだ。再び目を開いてそのうえで言うのであった。
「わかった」
「おわかりになられましたか」
「それでは」
「では城内の者達と家族は頼んだ」
このことはくれぐれもというのだった。
「それでは。わしはじゃ」
「はい、それでは」
「その様に」
こうして信賢はすぐに頭を剃り尾張を出た。これにより岩倉城は信長のものになった。城に入った彼はだ。戻って来た山内と堀尾と話していた。
話しながらだ。彼等に声をかけた。
「さて」
「はい」
「何でしょうか
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