暁 〜小説投稿サイト〜
戦国異伝
第九十六話 鬼門と裏鬼門その十
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

「比叡山があの有様じゃな」
「はい」
「そして高野山もそうだとすると」
「そうです。都を護るどの山も護りとなりませぬ」
「では今都には」
「鬼やあやかしが自由に出入りできる有様です」 
 そうなっているというのだ。
「だからこそなのでしょうか。都がああなのは」
「ううむ。兵で天下を平定してもじゃな」
「そして政を治めてもです」
「そうしたこともあるか」
「この世にいるのは人だけではありませぬ」
 雪斎はこう考えていた。彼の深い学識からである。
「鬼やあやかしもまた」
「おるか」
「古来より怨みを呑んで死んだ者が魔王となったこともあります」
 こうした話も枚挙に暇がなかった。実に。
「どなたとは申し上げるには少し」
「うむ、そうじゃな」
 ここで言ったのは林だった。彼は暗い顔になっていた。
「やんごとない方にも関わるからのう」
「ですからこのお話はこれで」
「止めておくべきじゃな」
「しかしです。この世にはそうした者がいるのもまた事実です」
 このことはだ。雪斎は強く述べた。
「そして中には」
「勘十郎様についていたあの者か」
 川尻はあの男のことをだ。ここで思い出したのだった。
「あの闇の衣の男が」
「津々木という者でしたな」
「あやしげな術を使っておった。あれはどうも」
「忍の者ではないな」
 その忍の者から出た滝川が述べた。眉を顰めさせて。
「断じてな」
「ではやはりあの者は」
「限りなく怪しいのう。妖しいと言うべきか」
 言葉は違うが言い方は同じだった。
「そうした者ではないのか」
「あれからじゃ。殿もじゃ」
 今言うのは丹羽である。
「あやかしの類はあまり信じぬ方じゃったが」
「そうじゃったな。鬼とか霊とかもな」
「ご存知ではあったが口に出されることはなかったのう」
「それがじゃな」
 その津々木と会ってからだというのだ。
「少し変わられた」
「そうした存在を否定されなくなった」
「となるとじゃな」
「やはり。あの者は」
「拙僧は見てはおりませぬが」
 雪斎はその頃はまだ織田家ではなく今川家にいた。当然他の今川家からの家臣達もだ。それでは津々木を知らぬのも当然だ。だが、だった。
「お話を聞く限りは」
「うむ、雪斎殿はどう思われるか」
「あの津々木のこと、どう思われるか」
「やはりあやかしでござろうか」
「それとも鬼か怨霊であろうか」
「そのどれとも違う様ですな」
 雪斎は話を聞く限りでこう述べた。
「おそらくはですが」
「では人か」
「そうなるのか」
「はい、人かと」
 津々木はそうした意味では異形の存在ではないというのだ。
 だが、だ。彼はここでこうも言った。
「しかし姿形がそうであってもです」
「その性根が違えば」
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ