第九十六話 鬼門と裏鬼門その六
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「このことはどうにかせねばなりませんが」
「それでもですな」
「はい、寺には中々入られませぬ」
武士の世界と寺社の世界はまた違うのだ。聖俗を抜きにしても。
「それ故に実際にどういった者がいるかは」
「わかりませぬな」
「それが残念です」
明智は茶を飲みながら話す。
「どうにも。しかしです」
「それでも、ですな」
「はい。本願寺も延暦寺も邪なことをするならばです」
「織田殿は看過されませぬな」
「そうした方ではありませぬ」
予想する言葉ではなかった。明智の今の言葉は確信だった。
「ですから」
「ですか。では」
「はい、その時はです」
どうなるかとだ。明智は言ってだった。
細川が茶を飲み終え礼を述べたところでだ。その彼に問うた。
「もう一杯如何でしょうか」
「茶をですか」
「はい、どうでしょうか」
「それでは」
細川は明智の申し出を受けた。そのうえでだ。
茶をもう一度煎れる。自分のものもだ。茶を飲みながら話をしていく彼等だった。
そして織田家の面々もだ。岐阜城において話をしていた。まずは柴田が言っていた。
「さて、これから殿の天下統一を阻むのは何処の誰かじゃな」
「それが問題ですな」
「政が治まってからは」
「そうじゃ。どの者かじゃ」
柴田は他の家臣の者達にいつもの大声で話す。
「武田か上杉か。それとも毛利か」
「三好もまだいますしな」
「そして北条もですな」
「うむ。十六の国を抑えたとはいえ油断はできん」
少なくとも柴田は状況がどれだけよかろうとも慢心する者ではなかった。無論油断もだ。
そうした男だから信長も信任して家老にしているのだ。その彼が言うのだった。
「まだまだこれからじゃ」
「ですな。それに大名達だけではありませぬしな」
「他にもいますしな」
「例えば延暦寺ですな」
村井だった。この寺の名前をこの場で出してきたのは。
「常に都を脅かすあの寺ですな」
「そうじゃ。延暦寺は厄介じゃ」
柴田も知っていた。延暦寺のことは。
「あの寺は常に都に僧兵を送って強訴するからのう」
「しかも延暦寺の権威がありまする」
村井はこのことも指摘した。
「それもありますからな」
「そうじゃ。延暦寺を攻めたのはじゃ」
誰かというと。それは。
「あの義教公のみじゃ」
「暴虐の方でしたな」
「いや、あの公方様はありませぬ」
「あの様な無体な方でなければですな」
「延暦寺は攻められませぬな」
「しかし」
だがそれでもだった。ここにいる者達もわかっていた。こういうことがわからずして信長の家臣にはなれにあ、信長の人を見る目は確かだが非常に厳しい。
その目で見てだ。彼は家臣を選ぶのだ。その彼等だから今こう言えたのである。
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