第九十五話 大と小その十二
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「それはせぬ方がよいであろうな」
「うむ、十兵衛は誇りもあるからのう」
「あれは実に誇りのある者じゃ」
「禄にも宝にも位にもつられぬぞ」
だからこそ仕える家も転々としていたのだ。
「だからつるのは効かぬ」
「それよりも話すべきじゃ」
「それがよかろう」
「話してもいいがな」
安藤もこのことは否定しなかった。
だがそれでもだ。彼は言うのだった。
「しかし幕府からだけ貰ってはならぬということでもあるまい」
「幕府のみ?」
「どういうことじゃ、それは」
「織田家からも出せばいいのじゃ」
こう言う安藤だった。
「そうすればな」
「?というとまさか」
「御主、両家にか」
「そうせよというのか」
「そこまでは言わぬ」
安藤は他の三人の言葉は否定した。
「ニ君に仕えず、まして十兵衛が二君に仕えるか」
「いや、それはないぞ」
「間違ってもない」
「絶対にな」
すぐにだ。他の三人は安藤の問いを否定した。
そしてそのうえでだ。こう彼に言ったのである。
「やはり誇りのある者じゃ」
「そうしたことは決してせぬ」
「間違ってもな」
「では十兵衛にも選ばせることになるのう」
この言葉を言ったのは稲葉だった。彼は真剣に考えながらだった。
そのうえで首を捻りながらだ。こう言ったのである。
「これからのことをな」
「正直今の幕府はただの飾りじゃ」
氏家は厳然たる事実を述べた。
「その幕府に仕えて果たしてどれだけのものがあるのか」
「ないじゃろうな」
不破も言う。現実を。
「正直なところな」
「その通りじゃ。とにかく公方様が無体をされても対することができる様にしておこう」
最後に稲葉が言いだ。そのうえでだった。
義昭に対してどうすべきか、幕臣達の間でも織田家の間でも話が出ていた。それは今は表には出ていないがそれでもだ。静かに胎動しようとしていた。
第九十五話 完
2012・6・12
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