第九十五話 大と小その八
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「だからです。正面からちまちまと攻めてもすぐに反撃に逢います」
「織田信長も馬鹿ではないからのう」
「あの男はうつけではない」
「間違ってもな」
このこともわかってきていた。信長の資質もだ。
だからだった。今の織田家は余計に厄介なのだ。
「だからか」
「一気に都を手に入れる」
「それしかないか」
「若しもこのままでいますと」
三好家が四国に留まったままだとだ。どうなるかというのだ。
「織田家がやがて四国から来るか」
「土佐じゃな」
「土佐の長曾我部もおる」
「あの家も何時来るかわからぬ」
「ではか」
「躊躇してはいられぬか」
「そうです。このままでは我等は織田家か長曾我部に攻め滅ぼされますぞ」
龍興はここでも言った。
「だからこそ。あえて都を攻めましょう」
「ううむ、都か」
「都を一気に攻めるか」
「また大胆じゃな」
「しかしそれしかありませぬ」
今の三好家にはだ。そうだというのだ。
だが三人衆はここで、だった。
龍興の話を聞き終えてまずはそれぞれ顔を見合わせた。見れば三人共深く考える顔になっている。その顔を見合わせてそうしてだった。
互いに頷き合いだ。こう言い合うのだった。
「では、じゃな」
「うむ、そうじゃな」
「それではな」
頷き合う言葉だった。そして。
三人同時に龍興に顔を戻してだ。こう告げた。
「御主の策を取ろう」
「この讃岐から都を一気に攻めようぞ」
「そうすることにしたぞ」
「有り難き幸せ」
自分達の提案を受けてだ。そのうえでだ。
龍興に述べる。さらにだった。
「では今から聞かせてもらおう」
「御主のその策な」
「より詳しく」
「はい、では」
確かな笑みになりそうしてだった。龍興は彼の策、その詳しい事柄までを三人衆に話した。そのうえで都を攻めようというのだった。
その都ではだ。義昭は御所において笑みを浮べて幕臣達にこんなことを言っていた。
「ほっほっほ、正月になればな」
「何をされますか」
「正月には」
「餅じゃ」
食べ物の話だった。それをするのだった。
「餅を食うぞ」
「餅ですか。ですがそれなら」
「極端に言えば正月でなくとも食べられますが」
「それでもですか」
「正月に餅ですか」
「そうじゃ。わしはこれまで餅なぞ滅多に食えなかった」
幕府、足利家の権威のうえだ。兄義輝が殺されてから逃げ回っていた。その有様ではだった。
餅どころではなかった。それでだったのだ。
「だからじゃ。正月らしく餅を食うことはじゃ」
「楽しみですか」
「正月に落ち着いて餅を食える」
「そのことが有り難いのですか」
「そうじゃ。まずはつきたてじゃ」
餅を臼でついてすぐに食うというのだ。
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