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戦国異伝
第九十五話 大と小その一
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                          第九十五話  大と小 
 信長は家臣達と主だった兵を連れて岐阜に戻った。岐阜城に戻るとすぐにだった。
 平手が出迎えてきてだ。こう信長に言ってきた。
「全て窺っておりまする」
「ふむ、相変わらず耳がいいのう」
「昔から耳と目には自信があります」
 平手は笑みを浮べてこう信長に返した。
「ですから」
「やれやれ。無駄に耳がよいのう、相変わらず」
「聞こえておりますぞ」
 信長の冗談には手厳しい声で返す。
「全く。殿は今やです」
「大きくなったとでも申すか」
「はい、尾張一国どころか」
 それに留まらなかった。最早。
「十六の国を有する大大名ですぞ」
「山名以上のじゃな」
 かつて六分の一殿と呼ばれ十一国を治めたその山名以上だというのだ。
「そうなるな」
「はい、そうです」
「やはり大きいか」
「大きいだけではありませぬ。石高にして七百万石を超えております」
 石高もだ。かなりのものだった。
「最早他のどの家にも勝てぬまでに」
「大きくなったからこそか」
「はい、ご自重下され」
「やれやれ。やはり最初は爺の小言か」
「それがし。何時でも謹言は忘れませぬ」
「そうじゃな。爺はそうでなくてはいかん」
 平手の謹言もよしとした。そうするとだった。
 平手は今度は涙を流さんばかりになってだ。こう信長に言ったのだった。
「しかしです」
「しかし?何じゃ」
「いえ、殿がここまで大きくなられるとは」
 このことは素直に喜んでいた。それも誰よりも強く。
「それがし、嬉しゅうございますぞ」
「いや、まだじゃぞ」
「ではやはり天下を」
「そうじゃ。わしが掲げるのは天下布武じゃ」
 旗印にもしているだ。それだというのだ。
「それ故にじゃ。これで喜んではならぬ」
「では天下を」
「そうする。しかし天下を収めると共に」
 それと共にだった。
「治める。よいな」
「そうされますか」
「では城に入る。して政の前にじゃ」
「何か」
「墓参りに行って来る」
 信長は平手にこう述べた。
「少しな。そうするぞ」
「お墓参りとはまさか」
「わかるのう。誰へのものか」
「あの方へのですか」
「行って来る。それではな」
「はい、それでは」
 平手も頷きだ。そうしてだった。
 信長は城に入るとすぐに帰蝶のところに来た。帰蝶は信長が部屋に入って来るとすぐに頭を垂れてだ。微笑んでいる声でこう言ったのだった。
「ようこそおかえりなさいませ」
「うむ、長い間一人にして済まぬな」
「いえ、岐阜で殿の活躍を聞いておりました」
「そうであったか」
「上洛を果たされそのうえで」
「近畿はあらかた手に入れたわ」
 その近辺もだというのだ。

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