第九十四話 尾張の味その十
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信長は義昭とのやり取りを終え本能寺に戻った。そうしてだ。
礼装から普段の服に着替えてだ。こう言うのだった。
「さて、都での仕事はこれで終わりじゃ」
「はい、そしてですな」
「これよりは」
「まずは岐阜に戻る」
織田家の拠点であるそこにだというのだ。
「そしてそのうえで政にあたる。しかしじゃ」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「まだ四国には三好がおる」
今現在の織田家の宿敵であるその家はまだ健在だというのだ。
「油断はできんぞ」
「はい、それではですか」
「とりあえずは」
「そうじゃ。三好は必ず来る」
逆襲に出て来るというのだ。
「その備えは必要じゃ。二郎」
「はい」
九鬼が応える。信長の今の言葉に。
「水軍を今にでも動ける様にしておけ」
「では水軍を堺に」
「いや、堺においてはかえっていかん」
信長は堺は固めるなというのだ。
「さすれば三好も警戒するであろう」
「では志摩に置いたままですか」
「志摩に置き何時でも紀伊を回って堺の方に行ける様にせよ」
「それもすぐにですか」
「そうじゃ。よいな」
信長は九鬼にこう話していく。
「すぐにじゃぞ」
「そして三好の水軍を叩くのですな」
「三好の水軍は中々のものじゃ」
瀬戸内の東の海賊達を多く従えているのだ。その結果だ。
「手強い相手じゃ。正面から挑んでも傷を受けるぞ」
「それも大きな傷をですな」
「左様。それでじゃ」
それ故にだというのだ。
「よいな。志摩に控えてじゃ」
「そして三好が動けばすぐに紀伊を回り」
「その横を攻めよ。わかったのう」
「わかりました」
九鬼ははっきりとした声で主の言葉に答えた。
「さすれば」
「うむ、それではな」
水軍の話は今のうちにしておくのだった。そして。
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