第九十四話 尾張の味その八
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それで義昭は再びだ。信長に問うたのだった。
「ではあらためて聞くぞ。褒美は何がよいか」
「そうですな。それでは」
少し考えてからだ。信長は義昭に答えた。
「今それがしが泰平をもたらした国々を治めることをお認め下さり」
「尾張から和泉まで全部じゃな」
「はい」
その全ての国をだというのだ。
「それをお認め下さり」
「それは当然のことじゃ」
褒美に入らないというのだ。
「他のことを申せ」
「では大津と堺、そして都と奈良に代官を置くことは」
「ああ、よいぞ」
このことも褒美に入れない義昭だった。
「その様なものはな」
「左様ですか」
「うむ、よい」
全くだ。気にしなくともよいとさえいうのだ。
「それが褒美か」
「そうですが」
「いやいや、まだ足りんぞ」
褒美を与える方としてはだというのだ。
「この程度ではじゃ。他に何がいるか」
「他にですか」
「本当に何でもよいのじゃ」
褒美を与える方にも誇りがあるということだった。仮にも幕府の将軍であり武家の棟梁だ。その誇りがあるからこそだ。義昭はこう信長に言ったのだ。
「言ってみよ」
「では。そうですな」
信長は秘めていた考えをここで出した。それは。
「公方様にお任せしますが」
「ふむ。わしにか」
「はい」
義昭にだ。あえて言わせることにしたのだ。
その為一旦彼に下駄を預けた。するとだ。
義昭は意識せずに乗った。こう信長に言ったのである。
「では家紋をやろう」
「家紋をですか」
「足利家の桐と二引両をな」
その二つをだというのだ。
「よいな。それをやろう」
「畏まりました。それでは」
「これならよかろう。何しろじゃ」
義昭は上機嫌で述べていく。自分の言っていることに気付かないまま。
「この二つの紋を使えるのは将軍家にじゃ」
その他にはだった。
「吉良家、そして今川家だけじゃからな」
「その中にですな」
「そうじゃ。織田家も入るのじゃ」
将軍継承権を持つ家にだ。比するというのだ。
「これなら文句はあるまい」
「有り難きお言葉。そして」
「褒美じゃな。ではじゃ」
「有り難うございます。それでは」
「うむ。後は刀でも何でも持って行くがいい」
足利家が今持っている宝をだというのだ。相次ぐ戦乱でかなり少なくなってはいるが。
「ではそれではじゃ」
「それではとは」
「能を見るか」
室町幕府が、足利義満の頃から深く愛しているそれをだというのだ。
「そうするか。どうじゃ」
「はい、さすれば」
褒美の後で、だった。信長は家臣達と共に義昭の催すその能を観ることになった。そこには確かに幽玄があった。信長は義昭のすぐ傍に席を置かれていた。
その場ではじまる前にだ。能を演じる観世太夫
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