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戦国異伝
第九十三話 朝廷への参内その十二
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「何もないではありませんか」
「しかしまだ持っているものがあります」
 山科は真面目な顔で述べる。
「幕府の威光です。まだ僅かにあります」
「そしてその僅かな威光を使うというのですか」
「織田家と揉めた場合は」
「その威光を見て大義名分とする家が出たならば」
 それならばだというのだ。
「織田家に対することができるでしょう」
「ううむ、そうなのですか」
「幕府にもまだ威光がありますか」
「そして織田家に対することができますか」
「あの有様でもまだ」
「全ては義昭殿次第ですが」
 だがそれでもだ。義昭が何かしようとすればだというのだ。
 山科はその場合のことを語る。だが、だった。
 彼は毅然としてだ。こう結論付けるのだった。
「ですが帝のお考えは決まりました」
「うむ、織田家が天下を定めるべきじゃ」
「ならば我等もです。織田殿を見ましょう」
 見る、それが即ちだった。 
 こうした話が信長が去った後の朝廷で為された。都においては織田家や幕府だけではなかった。
 朝廷もあり朝廷は朝廷で考えていた。そうした複雑な、麻糸の如く絡み合った政がそこにあった。


第九十三話   完


                          2012・5・29
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