第九十三話 朝廷への参内その十一
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「そうでなくとも比叡山はお世辞にも治まっているとは言えぬ」
「世俗にですか」
「染まり過ぎておるのではないのか」
こう言うのだった。比叡山について。
「高野山も聖達の悪事を聞く」
「まさにその鬼門と裏鬼門が」
「どうなのじゃろうな。これは」
「まさか殿は比叡山と」
利休だけではなかった。他の家臣達もだった。
信長が比叡山について言及するのを聞いてだ。朝廷の中にいながらも騒々しくなった。だがその騒ぎかねないものを抑えてだ。そのうえでひそひそと信長に問うたのである。
「あの、比叡山だけはどうにもなりませぬが」
「白河院も鎌倉幕府もどうにもなりませんでした」
「あの寺は別格です」
「ただ僧兵が強いだけではありませぬ」
「恐ろしいものですぞ」
「そう言うか。まあこのことは置いておこう」
今は言わないというのだ。これ以上話しても何にもならないと判断したからだ。
それでだ。今はまた利休に問うた。その問うたこととは。
「さて、今晩じゃが」
「朝廷より帰られてからですか」
「都の者に飯を作らせることになっておる。じゃが」
「だがといいますと」
「前にも都に来た」
桶狭間の前に上洛を果たした時の二度である。今が三度目になる。
「その都度都の飯を食うたがのう」
「御気に召されませんでしたか」
「何故都の料理はああも味がせぬのか」
信長が味わう限りはそう思えるものだった。
「わしはそれがわからぬ。これが摂津や和泉だとまた変わるのう」
「摂津や和泉になると濃いと仰るのですな」
「尾張もな。無論美濃もじゃ」
「しかし都は」
「味がせぬ」
信長はまたこう言った。
「どうにもこうにもじゃ」
「お口に合いませぬか」
「どうせ今度の厨房の者もそうであろう」
都の料理人であるだけにだ。そうだろうというのだ。
「まあ。期待はしておらぬ」
「では殿はやはり」
「尾張の味がよい」
そして話に出すものは。
「あの濃い味噌がじゃ」
「味噌がそもそも違うと」
「尾張の味噌は濃いのじゃ。しかも赤い」
その赤さがまた違う。濃い赤さだというのだ。
「それに対してどうじゃ都の味噌は」
「黄色いと」
「黄色いどころか白いわ」
それが都の味噌だというのだ。
「味もじゃ。あれでは食った気がせぬな」
「ふむ。それでは都の味には」
「味の好みは風雅だの気品だのとは別じゃ」
これが信長の考えだ。
「それぞれだと思うがのう」
「ううむ。しかし今度の者は確か」
「聞いておる。三好家の料理番だったそうじゃな」
「はい」
まさにその通りだとだ。利休も答える。
「確かそうでした」
「そうじゃな。三好家におった者じゃ」
「その者になりますが」
「まあまずいものを食ってもそれで怒った
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