第九十三話 朝廷への参内その八
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「そこにもじゃ」
「お布施をされますか」
「そうするとしよう。是非共な」
「ですな。何はともあれこの度の参内は無事済みましたな
「そうであるな」
「よいことです。誰も粗相はしませんでした」
林はずっと心配だったのだ。織田家の家臣の誰かがそれをするかとだ。
だが誰も粗相はしなかった。彼はこのことに安堵しているのだ。
それでだ。彼は言うのだった。
「それがしはほっとしております」
「ははは、新五郎達も御苦労であったな」
林兄弟という意味だ。この度の場を取り仕切った。
「お陰で無事に済んだわ」
「それが何よりでございます」
「全くです」
弟の林通具も言ってきた。その彼も。
「まことに誰も粗相をしなかったことはです」
「織田家にとって喜ばしいことです」
「そうじゃあな。まあわしはわかっておった」
家臣達を信じていたというのだ。
「誰も粗相をせんとな」
「信じておられましたか、殿は」
「我等を」
「うむ、それでじゃ」
心配していなかったというのだ。
「確かに朝廷に入るまでは不安も感じておった。じゃが朝廷に入った時の皆の顔を見てじゃ」
「信じられたと」
「そうなのですか」
「そうじゃ。まことによかった」
満足していた。だがここでこうも言う信長だった。
「しかし留守役で仕方ないとはいえじゃ」
「平手殿ですか」
「爺を連れて来れなかったことは残念じゃな」
こう言うのだった。
「また次の機会じゃな」
「いえ殿、それは難儀なことになりますぞ」
笑ってだ。堀がこう言ってきた。
「平手殿がここにおられると」
「口煩いというのじゃな」
「平手殿ですから」
織田家のご意見番である。家臣の誰に対しても言うし無論信長に対しても遠慮せずずけずけと言う。その平手がいるとだというのだ。
「それはもう恐ろしいことに」
「作法のことも新五郎どころではないか」
平手は宮中の作法にも詳しい。伊達に織田家の長老ではない。
「爺はとかく厳しいからのう」
「それがしも厳しいですが」
「いや、爺の厳しさは新五郎どころではないではないか」
「それは確かに」
言われると林も納得できた。とかく平手は厳しいのだ。
そしてその厳しさ故にだ。ここに連れて来ていたらというのだ。
「権六殿と新五郎殿を合わせたよりも凄まじいですぞ」
「まさに歯に衣着せぬですから」
金森と林が言ってくる。彼等にしても平手に叱られたことがあるのだ。
「今も岐阜において目を光らせておられるとか」
「お蔭で城の中は常に張り詰めた中にあるとか」
「張り詰めておるのはよいがな」
信長は少し頷いたうえでそれはよしとした。
「城の雰囲気が緩んでいては何にもなわぬ」
「それでは国が治まりませんか」
「そうい
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