第九十三話 朝廷への参内その五
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公卿達の信長から見て右手の御簾から見て一番前にいる初老の公卿がだ。御簾に向かって囁く様に告げた。
「織田信長殿です」
「うむ」
気品と威厳に満ちた声だった。それによる返事だった。
「来たのじゃな」
「はい、それでは」
「前に」
声はこう告げられた。
「前に来る様に。いや」
「いやとは」
「朕が話したい」
こう言ってこられたのだった。その公卿に対して。
「そうしたいがよいか」
「帝御自身がですか」
「左様。そして御簾もあげよ」
「何と、御簾もですか」
「上げられよというのですか」
「そうじゃ。織田信長を見てみたい」
それ故だというのだ。
「だからこそじゃ。よいか」
「ですがそれは」
恐れ多いとだ。その初老の公家は言おうとする。しかしだった。
声の主の方は公卿にだ。こう仰ったのだった。
「我儘だがよいか」
「ううむ」
「よいではないですか」
ふとだ。公卿の中からだった。
いささか飄々とした感じの中年の男が言ってきたのだった。
「帝がそう仰るのなら」
「山科殿はそう仰いますか」
「その様に」
「はい、そうです」
その公卿山科言継はその通りだとだ。他の公家達に答えた。
そしてそのうえでだ。彼もまた御簾の向こうに顔を向けて言った。
「帝、そうされないのですね」
「うむ」
その通りだとだ。声の主はまた仰った。
「そうしたい」
「畏まりました。では近衛殿」
山科は今度はその初老の公卿近衛前久に話した。
「どうでしょうか」
「そうじゃな」
近衛は少し考えてからそのうえでだった。
暫し時間を置きそれからだ。こう山科に答えた。
「麻呂としても。帝がそこまで仰るのなら」
「それで宜しいですな」
「うむ。それではな」
近衛も応え。そのうえでだった。
御簾を上げさせる。するとそこから緋色の礼装を着られた実に見事な顔立ちの方がおられた。その方が信長を直接見て言われたのである。
「織田信長か」
「はい」
その通りだとだ。信長も答える。
そして一礼してからだ。こう言ったのである。
「左様でございます」
「そうか。ふむ」
帝は信長の顔を御覧になられた。そのうえでだった。
こうだ。微笑んでから仰られた。
「よい顔だ」
「ですか」
「流石は瞬く間に多くの国に泰平をもたらさんとしているだけはあるな」
「泰平を、ですか」
「そなたは何の為に天下を統一したいのか」
かなり具体的な問いだった。だが。
帝はあえて信長にこの問いをされた。それを受けてだった。
信長もすぐにだ。こう帝に答えたのだった。
「はい、ただ天下を手に入れるだけなら何にもなりませぬ」
「では何をすれば何になるか」
「泰平をもたらしそれを守る世にすること
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