第九十三話 朝廷への参内その三
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信長は眉を顰めさせた。そうして明智と細川に密かに尋ねたのだった。
「御主達は暫く都におったな」
「はい、幕臣ですので」
「そうしていました」
「そうじゃな。ではこの御所の有様は」
「どうしようもできませんでした」
「今はとても」
これが彼等の返事だった。
「朝廷も幕府も」
「どうしても」
「これはあまりにも酷い」
建物もだった。あちこちが歩いただけで今にもそこから落ちてしまいそうな嫌な音が聞こえてくる。信長はその音も聞いて述べた。
「帝のおわす場所とは思えぬ」
「やはり源氏物語の頃の様にはいきませぬ」
「それは」
「しかしあの様にすることはできよう」
「といいますと」
「信長様はやはり」
「朝廷に寄進じゃ」
そうするというのだ。
「少なくともこの壁も門もあらゆる場所をじゃ」
「その源氏物語の様に」
「そうされるのですな」
「うむ、そうする」
朝廷に金を出す、そうするというのだ。
「そうしなければならん。これではあまりにも酷い」
「そうですか。では帝にですか」
「織田家より」
「かつての朝廷らしくせねばな」
信長が理想とするのは平安期の朝廷だった。みらびやかさということではそれを再現したいというのだ。まさに源氏や古今集の世界をだ。
「そうでなければならん」
「そして織田家にはそれだけの力があると」
「七百万石以上もあって何故それができぬ」
東海と近畿の十六国の主になった。それならばだった。
「摂関家の時代よりもみらびやかにせねばな」
「では」
「公方様はそうしたことは」
「申し上げておられぬ様です」
明智は目を閉じてこう答えた。
「残念ながら」
「左様か」
「幕府のことで手が一杯で」
そこまで考えられぬというのだ。嘉吉の乱に応仁の乱、そして先の将軍義輝のことにだ。そうしたことがあり幕府の力は完全になくなっていた。
だから義昭もだ。とてもそこまで考えられないというのだ。
「そうなっています」
「そうか。ではじゃ」
「はい、朝廷のことはですか」
「織田家が引き受ける」
こう言ったのだった。
「そうするからな」
「そうして頂けますか」
「帝も喜ばれる」
しかも朝廷に恩を売ることができ織田家の名声もあがる。信長にとってはいいこと尽くめだった。少なくとも寄進する以上のものはあった。
だから信長も躊躇しなかった。そのうえでのことだった。
「ではそうしようぞ」
「それが宜しいかと」
「そう思います」
ここで林兄弟も答えてきた。帝の御前に向かう渡り廊下を進みながら。
見れば庭も荒れている。庭にも雅はなかった。
その庭も見る信長にだ。林兄弟は話したのだ。
「織田家にとっても朝廷にとっても」
「第一に天下にとっても」
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